『da capo』N ページ37
水の中が好きだ。
音が吸い込まれるように消える感覚。
水中から見上げるとゆらゆら揺れる世界。
口下手な私は自分を表現するのが小さな頃から苦手で、何も話さなくていい水中の方が自由になれる気がしていた。
だから高校でも躊躇うことなく水泳部に入った。
一年生。
入部した当初の私は、タイムを縮めることで頭がいっぱいで、水泳よりも好きなことができるなんて思いもしなかった。
好きなこと、じゃない。
好きな、人。
その人は、授業中よく寝ている人だった。
教科書で一応隠しているつもりだったみたいだけど、後ろの席に座っていた私からはいつも丸見えだった。
「教科書36ページを……二宮くん、読んで」
はっと起きて、ページをめくっている。
「……36ページ」
こそっと呟くと、ちらっと私を見た。
立ち上がって何事もなかったかのように、源氏物語の一節を声に出して読み始める。
いい声だな、と思った。
間の取り方がきれい。
目を閉じる。
教室に響く、二宮くんの声。
ずっと聞いていたいなんて思う。
チャイムが鳴って古典の授業が終わると、二宮くんがくるん、と体ごと振り返った。
「ありがと」
急に話しかけられて、私は言葉が出ずにぶんぶん首を振る。
「黄田さん、だっけ？」
「う、うん」
二宮くんは椅子の背に顎を乗せて、あくびをした。
まだ何かある？
「これからもよろしく」
え？
え？
また当てられたら教えるってこと？
ね？って覗き込まれた目は、透き通った薄茶色で吸い込まれそうになる。
思わず頷いてしまった。
二宮くんは「ラッキー」と呟いて、にやりと口角を上げるとまたくるん、と前を向いた。
それから度々、私は授業中当てられた二宮くんにこっそり教えてあげた。
と言っても、答えを教えたことは一度もなくて、いつもどこを当てられているか教えているだけなんだけど。
二宮くんはものすごく頭の回転が早くて、ちゃんと答えは合っていた。
絶対この人、頭いい。
そんなやり取りが何回か続いたある日の昼休み。
とん、と机の上に紙パックの牛乳が置かれた。
自販機で売ってるストロー付きのやつ。
顔を上げると、二宮くんだった。
「お礼。いつもの」
「え……」
「牛乳、よく飲んでますよね？」
確かによく飲んでる。
だけど、そんなこと。
誰も知らないよ。
「……ありがとう」
自分はコーヒー牛乳をストローで飲みながら、二宮くんが「こちらこそいつもどーも」って笑った。
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みみ - reiさん、つむさんこんばんは。reiさんのお話が好きでこちらにもお邪魔させてもらいました 。どのお話もとても素敵で、繋がりも感じられて、読み終わった時どこか切なくても大切な何かが残っている気がしました。また次のお話を楽しみにしています。 (2019年4月5日 16時) (
レス) id: 4269c85d7b (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - reiさん、つむさんこんばんは。reiさんの大ファンでそちらよりお邪魔しました。つむさんは初めましてかな？とっても素敵なコラボ作品をありがとうございました。つむさんの作品も読みたいのですがどうやって探そう… さ、まずはダカーポしてきます。 (2018年7月19日 0時) (レス) id: 7382a51a30 (このIDを非表示/違反報告)
さら☆(プロフ) - reiさんとつむさんの大好きなお二人による作品！また大好きなお話が増えました。期待通りに戻って読み返すマニュアル通りの私！笑リンク部分は、嬉しく、そして最後に眼鏡をかけてる相葉先生！もしかして彼女に気を遣い？なんて☆また同企画がありましたら嬉しいです！ (2018年7月12日 3時) (レス) id: 1078765f1f (このIDを非表示/違反報告)
2038(プロフ) - とっても面白かったです(^^)全てのお話が繋がってて最後まで読んで、ぁあこういうことか！驚きました。二宮くんにも是非幸せになって欲しいですね! !続きがいつか読めたらいいなと密かに楽しみにしてます。 (2018年7月9日 21時) (レス) id: c512e9cb5a (このIDを非表示/違反報告)
めいぷる(プロフ) - とても良かったです！！！！！最後に繋がって無限ループ！！二宮担的には二宮さん幸せになって欲しいけど、ニノちゃんの恋が切なくて似合ってる！とも思ってます。黄田ちゃん諦めないで！！ (2018年7月7日 17時) (レス) id: ae3f3fc11e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年5月14日 16時
