乃木坂46のマネージャーは優しくて頼れる人 (ページ16)

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美月「婚約者...だったんだ...」

臨床心理学を翼は学んだ事があるのか、声のトーンや視線、態度では分からない。元々の資質なのかもしれないと思っていたが、美月は観察して考察するなかで一つの結論を出していた。

翼の嘘が分かりにくい理由は、嘘と事実を混ぜて話しているから。

貴「その人、子どもが産めない体でさ。だから、乃木坂の為とか良い口実できて逆にラッキーみたいな？素敵どころか最低だろ？」

事実なのだろう。

だが、翼はそんな人間ではない。

子どもが産めない体など翼にとっては全力で守る理由となるはず。

悩んで悩んで悩み抜いて、守りたかった人を子どもが産めないという理由で切り裂き、乃木坂を選んだのだと理解すると一期生の態度と全ての辻褄が合ってしまう。

美月「...ねぇ、まだ...その人の事、好き？...そうなら、私...協力するよ？」

翼は自分に同情して泣いて欲しいわけではないと心の中で何度も叫び、美月は瞳に涙を浮かべて唇を噛みしめる。

貴「美月さんに下手な嘘は効きませんか...大丈夫...その人は家庭を持って、養子を迎えて子どもと幸せに暮らしてるよ」

美月「そう..なんだ...」

手遅れ。もう、時計の針は戻せない。

柔らかな笑顔で答えてくる翼に胸を刺されるような痛みの感情に襲われ、美月は涙を止める事が出来なくなる。

美月「翼さん....翼さんは？...どうやっ..たら..幸せになれる？...してあげられる？」

貴「je suis aimee....だから...もう充分..幸せだよ」

美月「え？」

少し頭を抱き締められて、流暢に話されたフランス語を聞き取れずに美月は腕の中で翼を見上げて表情を見る。

貴「ん～、美月とこうやってシャンゼリゼ通りを歩くことが出来るからさ...あの時の決断は間違ってなかったって事」

美月の涙を拭き、もう流れていない事を確認した翼は距離を取って歩き出し、凱旋門を背にしながら屈託のない笑みを浮かべて振り返った。