いつか、会えたなら。【三輪秀次】 (ページ4)

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十数年が経った。

今、遠征中である。

「これで近界(ネイバーフッド)ともお別れか…」

少し寂しいような。

こっちには親切にしてくれた人もいて。

ヒュウウウ、と風が吹き、砂嵐が起こる。
目に砂が入ったらいけないと思い、バックワームで顔を覆う。

近くで当真先輩がくしゃみをしている。

「なんだよコイツは。砂嵐ばっかじゃねぇか。

なあ隊長、まっつん。」

「まあ我慢しろ、当真」

まっつんというのは、私のニックネームである。

はいそうですね、と適当に返すと、バシッと背中を叩かれる。

「なんだよ、つれねーヤツだな」

「これから遠征の船に乗ると思うと、気が滅入ってるんですよ」

「うそだろ？いつもそんな感じなのに？」

そう言って笑う当真先輩。

この人は明るいけど結構疲れる。

「そうだ、あっち向いてホイしねー？」

「……良いですけど」

「嘘に決まってんだろ」

「そのリーゼント切って良いですか？」

危うく戦闘？になりかける私たちを止めるかのように声がかかる。

「おーい！もうすぐ搭乗だとさ！準備しとけよー！」

「了解隊長」

「ああ、地獄の時間が…」

酔い止め酔い止め…

ポケットの中を探ると、ヒョイと当間先輩に渡される。

「さーてと、酔い止め早く飲んどけよー。
うちの隊は酔わねーの俺だけだからな」

「はいはい。

あっ、あそこに猫が」

私は1人になりたいがために軽く冗談をいう。

近くの岩に座って。

帰りたくない理由。

ひとつは船酔いだけど、もうひとつある。

三輪秀次。

私の幼なじみだが、ボーダーの中で唯一顔を合わせたくない人物である。

小学校のとき、何も言わずに転校してしまったから。いま、そのことに対して怒っているだろうか。

何も言わずに転向したのは、「転校する」と言って変に気を使われたくなかったから。

はぁー、と、ひとつため息をつく。

秀次は、4年前、近界民(ネイバー)に姉を殺された、と聞いている。

あの優しいお姉さんが死んだなんて、噂で聞いた私には耐えがたいものだった。

そして、私の立場。

私は玉狛寄りの忍田さん派だから。

玉狛イコール近界民(ネイバー)と、仲良し主義だから。

秀次はきっと城戸司令派だから。

三輪隊という隊が結成されたのは何年も前から知ってた。

なのに声がかけづらい。

まともに顔は合わせられない。

「さて、地獄の時間の始まり」