ストロベリータルト【アイナナ】【短編集】

風景　　NO.トウマ ページ20

『わぁ〜！きれいだね！』

海の見える場所に向かった私達は車をとめた。

後ろからネックウォーマーに口元を埋めながらポケットに手を入れて寒そうに私についてくるトウマ。

トウマ「あんまりはしゃぐなよ。倒れたら困るんだから」

『わかってるって〜！今日はすごい調子いいんだ！』

トウマは病弱な私を病院から連れ出してくれた。


ー海が見たい。ー


たった1つの私のわがままのためだけに。

オレンジ色に染まった空。
まだ少しだけ暗い海。

混ざりあった場所はキラキラと輝いていて……。

『やっぱり…綺麗…』

トウマ「そうだな」

潮風にわたしの長くて黒い髪がのる。

サラサラと毎日トウマがとかしてくれる髪は私の自慢だ。


トウマ「寒いから着てろ」

後ろから私の肩にコートをかけたトウマ。

私はそれをぎゅっと掴む。

『ん…………。ありがと』

こんなに世界は綺麗なのに。

大切な人がいるのに。

私はそれをすべて残してしまうのか。

溢れそうになる涙を我慢して、なんともないようにトウマに話しかける。

視線は地平線を眺めたまま。


『私ね……もう、長くないんだって』

トウマ「………………は？」

目を見開いて、口をあけて驚くトウマ。

『あと…数ヶ月なんだって』

ダメだ。泣いたらダメだ。

『もう……生きられないんだって』

ここで泣いたら、私は決心がつかなくなる。

『最後に…海…連れてきてくれてありがとう』

振り向いてトウマに向き合うと、私はむりやり笑った。

一筋涙がこぼれたが、それくらい見逃してくれてもいいじゃないか。

トウマ「バカなこと言うな！！」

コートの上からぎゅって抱きしめられた。

トウマ「もっといろんなもん見せてやる！海だって何回だって連れてきてやる！だから……そんな…最後みたいなこと…言うな」


『トウマ…』

泣いてるの？

下から見たトウマの顔は涙で濡れていて。

普段は人前では泣かない彼が私のことを思って泣いている。


『ほんとは……生きたいよ！私だって…もっとトウマといたいよ！！』

ダメだってわかってるのに涙が止まらなかった。


トウマ「A………」

ゆっくりとトウマの顔が近づいてきて。


私はゆっくり目を瞑った。


オレンジ色の風景の中で黒い影が重なった。

コーヒー　　NO.巳波→←パンケーキ　　NO.悠

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す