｢助けて｣なんて虫が良すぎる。《青》〈1〉 (ページ9)

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「………っ、はっ！！！」

彼は息が詰まる感覚で瞼を開けた。

自身の家の寝室の天井が目の前に広がる。

閉じられたカーテンの隙間から明るい日差しがさしているので、きっと朝だろう。

アラームもなく起きてしまった事を今更のように思い出し、勢い良く起き上がった。

壁にかかる時計は、8時50分をさす。

幸い今日の仕事は12時からだったので、

遅刻することはなさそう。

それなのに、心臓がやけに音を立てていた。

ダラダラと流れる汗。

背中も脇も、気持ちが悪い程に濡れている。

藤井はさすがにこのまま居るのは気持ちが悪いと思い、シャワーを浴びるためベッドから出た。

「…何やこれっ……」

足をベッドから下ろした時、

すぐそこに脱ぎ捨てられていた服を踏んでしまった。

ただそれだけだったら、良かったのかもしれない。

しかし、裸の足が踏んだのは服だけでは無かった。

服に付着している液体。

足の裏から伝わる滑り。

部屋が薄暗く、何色かも分からないソレを踏んだ彼は

見えなくともその正体を感じ取ってしまった。

その瞬間、夢で見たはずの光景が蘇る。

感触も匂いも冷たさも温かさも。

恐怖も、快感も。

これは、血液だ。

違う、あれは夢だ。

そうやって自分に言い聞かせている事に気付いてしまった。

そうやって、言い聞かせて

そうやって、嘘をついて。

彼は急いでその服を掴み

風呂場に駆け込んだ。

そして、頭の上から全てを洗い流すようにして

熱いシャワーを被った。

「…はぁっ、はぁっ…ちがっ、ちがうっ…ちゃうねん……はぁはぁっ……あ、あぁ…はぁ…」

明るい室内で足元に流れていく赤い水。

汗も血も涙も

夢も過去も恐怖も

罪も罰も愛も

火傷したくなる程の熱さで

洗い流したかった。