｢助けて｣なんて虫が良すぎる。《青》〈1〉 (ページ37)

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中間は藤井が落とした包丁を恐る恐る拾い

キッチンのシンクにガシャンと投げた。

本来ならどうするべきか。

そんな事、誰でも分かるはずなのに。

中間は勢い良く、その包丁の上から水をかけた。

シンクに広がりやがて排水口へと引き込まれていく赤色の水が色鮮やかに光る。

この血液が誰の物なのか。

それを聞く勇気が、中間には無かった。

手を切らないように注意をしながら

包丁に付着している血液を洗い流していく。

綺麗になっても何回も何回も

指で擦り水に流した。

水が跳ねたシンクも忘れずに、

自分の手も、忘れずに、

何もかもを洗い流した。

全てが綺麗になった頃には自分の手は冷たさで感覚を失い、痛々しく赤くなっていた。

「流星、起きて。」

自分はどうかしている。

そう思う頭を無視して彼を起こし

風呂に入れされ着替えさせ

靴箱の中にあった靴を履かせ

依然何も話さない彼を支えながらタクシーに乗り込んだ。

昨日と同じように晴れ渡る空がこんなにも暗く無彩色に見えるだなんて。

思わず笑いたくなるはずなのに。

中間は隣で眠る藤井の頭を撫でることもせずに

ただ、黒く沈んでいく心に身を潜めた。

藤井と共に病院へ戻れば、朝に話した看護師は安堵の表情を浮かべながらも

勝手に抜け出した藤井を叱った。

それに対しても無反応な藤井に、

中間も、その看護師も、眉をひそめ

病室を後にした。

藤井はその日、検査入院をし

結局どこにも異常が無かったので次の日に退院して

あの家へと帰った。

さすがにマネージャーも藤井の深刻さを放っておくことも出来ず

世間には発表しないが、内部で更に活動の制限を設ける事にした。

全員で映る必要がある仕事と、個人のレギュラー以外は基本的に休止。

オファーが来ていたドラマと舞台の話も流し、

ラジオやメンバーとのロケも一旦後回しにし、他のメンバーで代打を打つこととなった。

が、年末に向けて忙しくなるこの時期。

彼1人の分を6人で分担するのにも、正直限界が来ていた。

そして、その疲労に加え

唯一あの光景を見てしまった中間は

度々体調を崩すようになっていた。