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わざわざ体に負担がかかる階段を使う理由は浮かばないが、使っていないとは断言出来なかったので恐る恐る登り始めた。




ひとつ上の階まで行ってもそこは同じように病室が並ぶ廊下があるだけ。


もう少し上かな。




中間はさらに1階、2階と階段を使いその建物を登った。




彼の病室があった3階から登り始めて


ようやく最上階に着いた時にはもうすぐ冬が来るというのにじんわりと汗が滲んでいた。





目の前の扉を開くと

快晴が目の前を埋め尽くす。




そこには綺麗に整備された屋上が広がっていた。



花や木もあり、ベンチもある。



昼頃という事もあり、あまり人は居なかったが

ベンチに座る入院着を着た人がちらほら見受けられた。




中間が開けた扉の他に、大きな自動ドアがあったのでそっちがメインなのだろう。




屋上の左端にある扉の前で全体を見渡したが

藤井らしき人物は居なかった。






死角があるかもしれないのでもう少し奥まで見てみようかと足を進めた時



後ろの方から薄らと人の音が聞こえた。






声、と呼ぶ程には音になっていない

息をゆっくり吐く音。







中間は後ろを振り返り、

扉があった所よりもさらに左側へ足を進めた。




そこには柵と扉が設置されている建物の壁との間に

人1人通れる程の隙間があり



そこに、藤井が佇んでいた。





藤井は柵に手をかけたまま


青く青く広がる空を見つめ


息を吸い、息を吐き




ただその場所に存在している事だけが事実であるように


1人佇んでいた。





「流星…?何しとんの…」




中間は藤井に声をかけたが

その声はまるで誰にも届かなかったように消えていく。





「流星?」


「………」


「なぁ、おいっ!」





自分の声が小さかったのかもしれない。


そんなことを思って近付いたが

やはり彼の目は自分を捕えない。



それどころか彼の視線は、高い空からだいぶ下にある地面へゆっくりと移り

柵を掴む手に力が入っていく。




中間は咄嗟に彼に抱きつき耳元で名前を呼んだ。



一瞬ビクついた彼の体は

直ぐに力を失い、手は柵から離れ

中間に寄りかかるようにしてペタンと座り込んだ。





「流星、分かるか?俺や、淳太やで、」


「…じゅ、んた…」


「せやで?なぁ、分かるやろ?」


「わかるよ、」


「…病室、戻ろ?」





彼を支えたまま立たせ、


建物の影から出た。




頬を撫でる北風が、心の熱さえも冷ましていく。

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作者名:#TODAY | 作成日時:2021年8月18日 13時

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