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はずだったのに。









彼の心の内を理解したつもりで居た。


そんなのは、ただの妄想であり現実では無い。









小瀧望は掠れゆく意識の中



通話中の電話を片手に涙を零した。






それは数時間前。




その日藤井の家に泊まることになっていた小瀧は夕方頃、仕事を終えて彼の家へと向かった。



藤井は今日自分よりも仕事が早く終わったため家に行くと案の定先に着いていて

ゆっくりと珈琲を淹れていた。





「よお流星。元気か?」


「あぁ、おん。」


「…その返事は50%って所やな。」


「分かりすぎてて怖いわ。」


「分かり易すぎて怖いわ。笑」





最近の藤井は、ずっと前程ではないにしろ少しずつ笑うようになってきている。


言葉もだいぶ柔らかくなっているし

物を投げることも無くなった。



ただ、


自分が歳下なのがいけないのか

悩みを話してくれる事はなく、


たまに酷く悲しい顔をすることがある。





「…飲む?」


「欲しい。」


「……はい。」


「ありがと。………なぁ、」


「ん?」


「なんでも言うて。俺にアドバイスなんかされても嬉しくないかもしれへんけどさ、でも一応、ほら、昔っから一緒やん。流星のこと割となんでも知っとるつもりやねん。」


「………いや、」


「何で?」


「ええよ、心配せんくて。もう色々やってもろうてるしな。」


「そんなん考えんと言うてや。悲しいやん。」


「何で望が悲しんでんねん。」





目の前でマグカップを持ちながらヘラッと笑う彼が

妙に悲しく見えた。





だから、だろうか。





小瀧はその日の夜、リビングにひかれた布団の中で真夜中に目が覚めてしまった。



ひとつ吐いたため息は音もなく暗闇に溶けていく。



このままもう一度眠りにつくか、何か飲むかと迷った小瀧だったが

微かに聞こえた足音で目を開けた。



廊下をゆっくりと歩く音が聞こえる。


藤井が起きたのか、それとも…




小瀧は冴えてしまった頭を働かせ眼鏡をかけて布団から出た。



そしてそっと廊下へと続く扉に手をかけ

音を立てないようグッと力を込める。



心臓の音の方が、何百倍も大きかった。





「…流星?」





電気が付いた廊下に佇む黒い人。



その後ろ姿は藤井だった。





「…何しとるん?」





自分の声が聞こえたのか

ゆっくりと振り返った藤井。



しかし、その目は


まるで彼の全ての感情を殺したように

真っ黒に沈み

虚ろに空虚を見つめていた。

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作者名:#TODAY | 作成日時:2021年8月18日 13時

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