｢助けて｣なんて虫が良すぎる。《青》〈1〉 (ページ23)

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藤井は直ぐに救急車で運ばれ

ライブツアーの千秋楽、夜公演は6人で行われた。

プロではあるにしろ、

あの状況を見たあと、6人での公演をするための準備などに追われたメンバーは

ヘトヘトのまま最終公演をやり遂げ

その日は打ち上げなどする余裕もなく、各自ホテルへと帰った。

藤井のライブ不参加は"怪我のため"としか知らされず

ファンはいきなりの出来事に混乱していた。

SNS上では様々な憶測が飛び交い

昼の公演時に藤井がファンを嫌がっていたというのも広まってしまった。

それに伴い、最近の藤井の体調の心配や

ファンとの間にできた溝

ライブでの空元気や作り笑顔

グローブのことについても掘り返され

ファン内だけではなく、色々な業界の人の目にも触れるまでに波紋を呼んだ。

藤井は運ばれた病院で治療をし

その日のうちに意識も回復した。

病院の先生から説明を聞かされた後

入れ替わるように入ってきたのは精神科の医師だった。

「藤井さん。体調は大丈夫ですか？」

「…はい。」

「明日には退院できますので、今日はゆっくり休んでください。」

「分かりました。」

「それで、東京に戻られてからなんですけれど、出来れば通院していただきたいのですが。」

「…俺病気やないですよ。」

「はい。それはそうなんですが、藤井さんの心を少しでも軽くするために、カウンセリングを受けていただきたいんです。これは決して、藤井さんが病気であると決めつけている訳ではなく、藤井さん個人のことをちゃんと分かったうえで、サポートしていきたいんです。」

柔らかい表情で話す医師と比べて

藤井の目には依然、光がなかった。

スラスラと並べられた言葉を一つ一つ理解する必要は無い。

言いたいことはすぐに分かってしまったから。

つまり、この医師も、メンバーも、マネージャーも、事務所も、

また自傷行為をしないようにして欲しい。

そう思っとるって事。

ただ、それだけだ。

「分かり、ました。」

「では、紹介状を書きますね。」

にこやかに部屋を後にする医師を無視し

布団を頭まで被った。

最後までやり遂げたかったライブツアー。

そのために我慢していた刃物も

あと一歩の所で手に取ってしまった。

痛みなど、正直どうでもいい。

確かに痛かったけど

あの赤い液体に幸福を感じてしまったのだ。

彼は真っ暗な布団の中で

闇を被せるように目を閉じた。