｢助けて｣なんて虫が良すぎる。《青》〈1〉 (ページ17)

今日:9 hit、昨日:15 hit、合計:41,158 hit

17. ページ17

.

自分の足音でさえも

耳を劈く程にうるさく感じる。

楽しかったはずのライブなのに、

何故これほどまでに苦しくなるのか分からない。

そして、藤井がこの時のライブをきっかけに

周りから見ても分かるように、明らかに変わってしまったのは

この時の彼らからしてみれば分かるはずもなかった。

ライブツアーは後半。

あの一件でメンバーから孤立した、なんてことも無く

藤井は今まで通りでいた。

けれど彼の中で変わったのは

苛立ちが苦しみへと変化したことだった。

あれだけ苛立っていたのに、

ものを投げたり思うままに言葉にしたり

それを周りは尖ったものを見るように怯えていたのに

今の彼はそんな時すら無かったかのように大人しい。

いや、

大人しい、と言うのはまた少し違うかもしれない。

「…流星、そろそろやで。行こう？」

「………」

あの日、少し言いすぎたと感じたのか

彼に話しかける時はいつも以上に丸く喋るようになった桐山が、楽屋のソファに座る彼に声をかけたのは

ライブ最終日の昼の公演が始まる15分前だった。

「流星？どうした？」

「………俺、」

「体調悪いか？」

「…迷惑、かな…」

「………なんのこと？」

「心配、されとる？」

「……まぁ、元気ないと心配になるよ。」

「そっか、」

「え、なんで？」

「ライブ、…………楽しい。」

「…おぉ、そっか…」

桐山は藤井の言動に多少不思議がったが

藤井が不思議なのはいつもの事なので、

寝起きで頭回ってないんかな、と楽観的に考え藤井と共に楽屋を後にした。

桐山は気付いたのか、

それとも、やはり気が付かなかったのか。

"ライブ、楽しい"

その言葉をブツブツと繰り返す藤井には

誰一人として、声をかけなかった。