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それからというものの彼は

グローブをして仕事に行くようになった。





最初の頃はメンバーや一緒に仕事をするスタッフさんには驚かれたし


興味も持たれたが、

ある程度説明すればすぐに分かってくれたし


いつの間にかそれが当たり前となった。



メディアにもそれで出て、

ファンの人の間でも一時期話題になったが

それも時と共に収まって行った。



最終的には


それが"当たり前"となっていく。



何事も、時間が経てば

慣れていく。





そうだと、思っていた。










「…あかんっ、」





彼は、いつも通り人殺しに出かけた。





金銭を要求する訳でもなく


己の心ゆくまで目の前の人間を殺していく。



それが彼の快感だった。




しかし、今日は、少し心がざわめいている。


心の中の

奥の奥の奥の

柔い部分にザックリと



まるで自分自身にナイフを突き立てたように


震えた。





「ハァッ…アァッ…ハァッ、りゅっ、う…せい…くんっ……」


「…っ、」


「…ハァッハァッ…うそ、でしょ…ハァ…」


「喋んなっ、」


「なんでっ…なん、で…ハァッ…」


「喋んなって言うとんのが聞こえへんのかっ!!」


「やめて、よ…っ、」


「………」


「もうっ、こんな、ことっ………………」





女の人だった。


ナイフを突き刺した瞬間、目が合ってしまった。




変装している。


証拠が残らないように細心の注意を払って。




それなのに彼女は、自分の名前を呼んだ。



ジャニーズWESTの藤井流星だと、気付かれてしまった。





幸い、彼女はそのまま息の根を止め


パタリと動かなくなった。





しかし、その時彼は


彼女の鞄にジャニーズWESTのキャラクターの缶バッジが付いていることに気付いた。


気付いてしまった。





「…はぁっ、あぁ、、…あかんっ、わ…」




手が震える。


今までこんなことなかったのに。




楽しいとさえ思えていたのに


どうして自分は今、こんなにも苦しいのか。






この場にいることが出来なくなった彼は


無我夢中で竦む足のまま家に走った。





どうしようもなく、苦しくて涙が出る。





玄関をあけ、靴を乱雑に脱ぎ


そのままの勢いで洗面所に駆け込んだ。




強く消し去るように


感触も匂いも感情も消し去るように



力いっぱいに手を洗う。





「…あぁ、っ、はぁっ…はぁっ…あかんっ、て、もう……無理、、」





遠くから、降り始めた雨の音が聞こえはじめた。

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作者名:#TODAY | 作成日時:2021年8月18日 13時

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