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それは、いつもレギュラーで出ている番組の収録前だった。
藤井がスタッフに促され
衣装に着替えるために衣装室に向かうと
そこには難しい顔をした自分らのマネージャーが待ち構えていた。
普段ならこのままスムーズに着替えをするのだが
明らかに重苦しい空気を読まざるを得ない。
「藤井。」
「…はい。」
「その手、どうした。」
「手…?」
マネージャーに言われ反射的に見てしまった自分の手。
皮膚がボロボロに荒れ、
所々は切れて血が滲んでいる。
惨めな手だ。
「あぁ、ちょっと…」
「ちゃんとケアとかしてるか?」
「すみません、時間なくて。」
「最近急にだよな?」
「…まぁはい。」
そう、彼の手がこんなにも荒れたのはつい最近。
1週間前、初めて人を殺してからだ。
ここまで荒れるような事は無かったので
ボロボロになった手を見てメンバーからも心配された。
分かってる。
人に見られる職業なんだから
見られていい格好でいるべき。
そんなことは、言われなくても分かっている。
「ちゃんとケアしても治らないようなら早めに病院行けよ?」
「はい。」
「良くなるまでは、これ、付けてろ。」
「…え?」
マネージャーから渡されたのは
革製のグローブだった。
確かにオシャレの範疇ではあるし
衣装としてつけている分には問題ない。
これをつけていれば完璧ではないが手の荒れを隠すこともできる。
でも、それを渡された深意を
彼は瞬時に探り当てた。
俺、汚いんや。
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作者名:#TODAY | 作成日時:2021年8月18日 13時