｢助けて｣なんて虫が良すぎる。《青》〈1〉 (ページ11)

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真夜中の2時半。

キッチンにある包丁を抜き取り

タオルに包んだ状態でパーカーのポケットに入れる。

帽子を深く被り

サングラスとマスクをし

フードを被る。

趣味で集めていたスニーカーを履き

家の鍵を閉める。

元々好きなおかげで黒い服は幾つもあった。

闇に溶け込むように

影に溶け込むように

黒ずくめの格好をした彼は

人気の少ない住宅街へと足を進めた。

コトを済ませた彼は

防犯カメラから逃げるように家に帰る。

リビングに着いた頃に、いつもくたびれて寝落ちしてしまうのだが

まるでそれは

神にでもなったかのような

幸福な夢を見ているかのような

暖かく愛らしい程の幸せに包まれた気持ち。

彼は

ソレに快感を覚えてしまった。

しかし、朝日が昇って目が覚めると

どういうことか、

その快感は悍ましい恐怖へと変貌する。

あんなに気持ちよかった心地は

全身が身震いするほどの気持ち悪さへと変わってしまう。

匂いも、感触も、音も、光景も、何もかも。

鼻に、手に、耳に、眼に、付いて離れない。

朝の支度をする前に

着ていた服を全て浴槽に投げ込み、洗い流すのは

朝のルーティーンになっていた。

そして、風呂から出た彼は

あの時の感触を消し去るように手を洗う。

何回も何回も何回も

石鹸をつけて

消毒をして

冷たさなんか感じなくなるまで

ゴシゴシと力を込め、手を洗う。

初めに人を殺してから

1週間。

5人の人間の生命を終わらせた彼の手は

赤く、黒く

ボロボロに荒れていた。