過去 ページ6
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なかなか眠れず、月光が差し込む廊下を一人で歩く。
腹は減ってないし、興奮しているわけでもない。でも、何だか心がサワサワとして落ち着かない。
この原因は、きっと、彼女だろう。
自由人……A＝コタール……にアルティメットレアと呼ばれる衣装が届いたのは、昼間のことだ。
包みを少し破いただけで、彼女にしては珍しく、嫌そうな表情を見せていた。まるで人間らしいソレは、「幽霊」を名乗る彼女には似つかわしくない。俺にはそんな彼女の表情が気がかりだったが、周りの人間は気づかなかったらしい。
彼女は周りに囃し立てられ、しぶしぶ衣装に着替えに行った。
そして戻ってきた彼女は、往々のサバイバーが衣装を身にまとった時がそうであるように、まるで別人のようであった。
キツイ色合いのエンパイアラインを身にまとい、社交界の貴婦人のように色の濃いメイク。それからどこか朧げな瞳。
彼女は俺を見て、ひどく不安げな声音で「血、だ」と呟いて見せた。
それは俺にしか聞こえなかったのだろうか。いや、数名には聞き取れたのだろう。
妙にひきつった表情をしたダイアー医師とべハムフィールが、彼女をやじ馬から引き離すように移動させる。
「エミリー！ボク、Aの衣装みたいんだけど？！」
「それはまた、今度にしましょう。この衣装はいけないわ」
窓際へと引き寄せられていくAの横顔からは、芯も感情も感じられず、まるで「幽霊」と名乗っている平時の状態以上に「幽霊」らしかった。
「えーっ！ちょっとしたら大丈夫だよ。体が衣装に合わせてくれるでしょ〜」
思わず、トレイシーの肩を掴んだ。
少しばかり、聞き逃せない言葉だった。
「……おい、」
「何、ナワーブ」
トレイシーがこっちを向いた先に、俺はダイアー医師とベハムフィールに対して「さっさと連れていけ」と指で合図する。
二人は助かったと小さく笑みを浮かべると、相変わらず洞のような瞳で外を眺めるAを連れて行った。
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作者名：トバリ | 作成日時：2020年11月9日 22時
