知らせ ページ8
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それは急だった。
【A、お兄ちゃんが目を覚ました】
『……分かった』
珍しい人から電話が来て、兄が目覚めた知らせだった。
望みはないって言われてたけど、年々反応があったっては聞いてた。
「A？」
『剛典……』
リビングでボーッとしてたら、彼が寝室から出てきた。
今の時間は朝方。
電話で目を覚まして、ここまで来たのはいいけど、彼も起きてきた。
「電話大丈夫だった？」
『……何も大丈夫じゃない』
私は彼に抱きついた。
彼は優しく抱きしめ返してくれる。
私の親は、私が結婚するにあたって親族挨拶にすら参加しなかった。
挨拶がしたいって言った剛典とその御両親に対して、電話一つで終わらせた。
娘をよろしくお願いします、とだけ言って。
申し訳なさ過ぎて、恥ずかしすぎて泣き出してしまった。
そんな親だった。
昔から、兄のことばかりで私には目を向けない。
兄が昏睡状態になってからは、余計だった。
『剛典、今まで家族のこと話せなくてごめんね』
「A、無理しなくていいから」
『お兄ちゃんが、目を覚ましたって連絡だった』
私は家族との思い出が無い分、話せることもそう多くない。
彼はそれを理解してくれていた。
『もうすぐ兄が眠って二十五年経つ。
だから、来るならもう少し後にして欲しいって言われた。
とても嬉しそうだったんだ、その報告が』
今更嫉妬とか何も無い。
けど、起きることでこんなに両親が嬉しそうなことを見ると、
どうしてか胸が痛くなる。
「A、無理して笑わなくていいから。
泣きたかったら泣いていいから」
『っ……剛典』
その言葉に堪えてたものが我慢できなくなった。
両目から涙が止まらなくて、剛典の肩に顔を押し当てる。
剛典はずっと抱きしめてくれて、愛してくれて。
親から貰えなかった愛情を、彼が注いでくれてる。
「Aのさ、気持ち聞かせてよ。
一人で抱え込まなくていいんだよ」
夫婦になって、ずっとお互いに言い続けてることがある。
一人で出来ないことは二人で乗り越えようって。
今は私だけど、
剛典だって弱音は吐くし、私に会って泣き出すこともある。
二人でそうやって乗り越えていこうね、って決めた。
絶対話すから、今だけは何も言わないで、泣かせて。
私がそう言うと、剛典は分かったって、抱きしめてくれた。
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作者名：雪乃 | 作成日時：2023年7月4日 0時
