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悪い女 ページ13
と、握った手が急に強く握り返された。
シゲアキはまだ規則正しく呼吸していて、起きた様子はない。
ふと、その乾いた唇が動く。
A、と。そう、言った気がした。
「シゲアキ・・・」
好きだよ。なんでこんなに好きなのかわからない。
どうしようもなく惹かれるの。
早く彼に触れて、彼でいっぱいにしてほしくて、飽きずにその寝顔を眺めているあいだに、タクシーが緩やかに止まる。
「シゲアキ、起きて。ついたよ」
「ん・・・ああ、ごめん・・・寝てた・・・」
「いいよ、部屋に行こう」
寝起きのせいか、足を引きずるようにしてヨロヨロとついてくる彼を部屋へと押し込む。
ダウンライトの灯りの下、靴を脱ぐのももどかしくすがりつく。
シゲアキも、強く抱きしめ返してくれた。
「おかえり」
「うん・・・ただいま」
見上げれば、いつもきりりと上がっている眉尻が少し下がって、だけどその下で濡れたように光る黒曜の瞳。
心臓が慌ただしく動き出す。
「A。改めて、よろしく」
「こちらこそ、シゲアキ」
ことばには力があるという。
それはもろく、風が吹けば切れて飛んでいく蜘蛛の糸のようだったけれど、確かに私とシゲアキを深いところで繋げた、言霊。
その糸をたぐるように、私たちは夜をかけて、いつまでもお互いを確かめ合った。
*
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作者名：Niina* | 作成日時：2023年8月2日 20時
