【ナ⌒ポ⌒リ】彩り緑【短篇集】 (ページ9)

今日:11 hit、昨日:1 hit、合計:22,326 hit

只今ページ9

.

フライパンの上では幾つかの食材が火で熱せられ、踊るように焼かれている。ただの肉野菜炒めだけど、自分なりには美味しく作れただろうと満足。

それらを皿に移していると、玄関の鍵が開き、只今と声が聞こえた。廊下に重たかったであろう鞄を置く音が響くと、服同士が擦れる音が耳に届く。きっと着替えているのだろう。そのあとは水の音。手洗いうがいを済ませていた。そして後ろから横開きのドアが開く。

「疲れた…。」

わかるよ。疲労が顔に出てるもん。

「お疲れ様。先お風呂にする？」

「…やだ。A先に食べちゃうでしょ」

小学生の様な理由を述べ、思わずクスッと笑ってしまう。そんな私の様子を見て、口を尖らせる姿もまた幼い。

エプロンを脱ぎ、手を合わせて挨拶をする。感謝を込めていただきますと。

彼はいつも美味しい美味しいと言いながら箸を進めてくれる。本当に優しい。

「…そんな見られると食べずらい」

「あっ、ごめんね。嬉しくてつい。」

そうして今夜もまた米の1粒も残さずに平らげてくれる。皿は下げてくれるし、洗ってもくれる。その姿を見てるのがとても好きで、携帯でブログを読んでるフリをして彼を見る行為が習慣化してきている。おかげでご機嫌に鼻歌を歌ってる時は、仕事が上手くいった日だと最近分かるようになってきた。

「A」

風呂から上がってきた彼は頬を彩度の高い唐紅色に染め、ベッドで横になっている私を呼ぶ。

上半身を起こし、ベッドの横に来た彼を見上げようとすると、熊のような勢いある抱擁をされ、反動でベッドへ共に倒れ込む。少し滴っている髪が冷たくて気になるけど。

「もう、なあに」

彼の首元に掛かったバスタオルを取り、わしゃわしゃと髪を拭く。私の鎖骨部に顔を埋める彼は、心地良さそうにしていた。甘え時、なのかな。そう言えば鼻歌を今日は歌っていなかったから、仕事で失敗をしてしまったのかもしれない。

「Aはさ、俺のこと好き？」

か細い声で聞いてくるものだから瞬時に好きだよと返す。こんなに優しく、私を想ってくれる人は唯一無二、彼しかいない。

「ん。良かった。俺も好きだから。」

はっちは顔を上げ、吐息が掛かる程に顔を近づける。こんなにも恍然とした表情をされたのは結婚式以来。相変わらず顔は整ってて、睫毛は長くて綺麗で見惚れてしまう。

はっちは私の頬に触れ、更に顔を近付けるも、私は彼の口元を抑えた。

「明日仕事あるからだめ」

また彼は口元を尖らせていた。