【ナ⌒ポ⌒リ】彩り緑【短篇集】 (ページ16)

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雨のち晴れページ16

雨の続きのような作品

彼女が俺の家に来るのは決まって雨の降る日だけだった。且つ終電を乗り逃す時。そして夜更けに俺の家のインターホンを押して、濡れた服のまま上がるわけだ。

しかし梅雨までにはあと1ヶ月もあり、中々雨の降る日が訪れず、連絡も大して取っていなかった。なんせ話すネタも無い。そのくらい詰まらない男だし。

そして今日。雲1つない天気。汗が滲み、水無月を忘れ7つ目の月が来たような乾いた空。月もなんだか暑苦しそうにしている…気がする。

ピンポーン

電子音が鳴る。宅配か、町内の掲示板か、はたまた某テレビ局か。重い腰を上げてドアを開けると、予想の遥か上を越す心底嬉しい人物がそこにいた。

「…終電逃した？」

「ううん…会いたくなっちゃった」

心が擽られる感覚。今の俺はきっと気持ち悪い笑みを浮かべてるに違いない。けどそんな事はどうでもいい。愛しい愛しい彼女が予想だにしない展開で来てくれたのだから。

「上がって。珈琲でも出そうか。」

「砂糖多く入れてね！」

「んふふ、仕方ねえなあ。」

彼女を先に部屋に入れてやり、扉を閉めて早速珈琲を淹れる。そこに角砂糖を三つも入れる。甘ったるい味だが、Aはそれが堪らないらしい。

「俺も、会いたかった。」

彼女をベッドに寝かせ、その横に座ってふと呟いてみた。

「だと思ったよ」

まるで全てを見透かしている目。早く寝ようよと言わんばかりに俺の袖を引っ張る。それも可愛らしい。

明かりを消して布団に潜り込む。と、同時に俺を包むようにして抱き着く。幼稚園児の様に無邪気な行為と笑顔で。大人の余裕なんてこの際棄ててやろう。付き合って数ヶ月。奥手な男にはなってたまるか。

自然と目が合う。偶発的に足が絡まっていた。Aは俺を見上げ、何となくうっとりした表情だった。その表情をもう少し崩したい。そんな好奇心と好意に任せて腰を抱く。次に吐息が掛かる程至近距離に詰める。最後は、最後は…。

「…また俺の家に来て。」

「毎日来ちゃおうかな。」

「…なら同棲しよっか」

彼女の左手の薬指に触れる。流石に意識、したでしょ。ほら見ろ、熟れた林檎のように赤くして俯いてる。そんな彼女の顎を無理矢理上げ、唇を奪う。理性が効かない気がする。女性らしいいい匂いまでして誘惑してるし、少し汗ばんだ体が唆る。何よりAの甘い声。砂糖なんかよりも甘くてもっと欲しくなる。