【ナ⌒ポ⌒リ】彩り緑【短篇集】 (ページ12)

今日:10 hit、昨日:1 hit、合計:22,325 hit

酔い好い宵ページ12

.

緋色の髪飾りを付け、それにそぐう落ち着いた色彩の浴衣。俺に気付いたその子は向日葵が咲き誇る様に明るく満面の笑みだった。

「おまたせ。浴衣…可愛い、です…」

駄目だ駄目だ。俺の緊張の風船が今にも爆発して大きな音を立てそう。なんでこう歯に衣着せぬ褒め言葉をすんなりと言えないんだ俺は。

「はっちも甚平似合ってるよ」

髪飾りがちらちら揺れ、笑顔を絶やさずに俺なんかの格好を褒めてくれる。…気を遣っているんだろう。

無数の屋台が俺たちを挟むように並んでいる。お面売り、綿菓子、金魚すくい…などとお馴染みのヤツらは行列を無駄に多く作っていた。

そのお馴染みの一つ、フランクフルトを口に頬張りながら歩き回る。やけにフランクフルトを売るお婆さんが『カップルかい？』としつこかったのは忘れまい。

酒を飲み、イカ焼きも胃に入れ、焼き鳥やあんず飴なんかも消化させた。流石の俺も酒が進みに進み、珍しく酔っているのが自分でもわかる。常にメリーゴーランドにでも乗ってるようなふわっと体が浮く感覚。

「花火、そろそろですかね？」

彼女はスマホで時間を確認し俺に尋ねる。そう言えばあと5分で毎年恒例の打ち上げ花火が始まる。去年見つけた穴場にこの子を連れて行こう。そう決心した俺は彼女を人一人いない、俺のように淋しい河岸に向かった。

虫のせせらぎ、川の流れる落ち着く音。その雰囲気をぶち壊すように花火が打ち上がる。彼女はわあっと両手を上げてまで喜んでいた。…口元が緩んで仕方ない。

じいっと見ていたからだろう、彼女と目線が交わった時はドキッとした。が、酒の効果か、俺の下心か、気付いたら俺の方から距離を詰め、手を重ねていた。

「…すき」

運悪く壮大に花火の音が地域中に響く。絶対何も聞こえていやしない。

「私も」

「…ホントウカ？」

耳を疑い一度尋ねる。彼女は俺の肩に頭を乗せて“本当”と囁く。胸焼けしそうになるほどの甘い視線を送られ、酒を摂取してるからか、無意識の内に彼女の後頭部に右手を回していた。

「していい？」

「んー？何を？」

「いわせるの、それ…きすだよ。」

上手く呂律が回らないままキスを落とす。…寿命半年は延びそう。つーか、厭らしいが柔らかくて気持ちいい。

彼女を押し倒し、もう一度あの感覚を欲し、顔を近付けると、

「お若いね～、ほらそこの男！グイグイいきな！」

先程のお婆さんの声援が聞こえ酔いが覚める。俺もAもあんず飴の様に恥じいた。…宅飲みしよう。