【ナ⌒ポ⌒リ】彩り緑【短篇集】 (ページ11)

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くるぶしに波が来る程度の海と砂浜の境目で彼女の手を握って歩く。辺りは真っ暗で、三日月と電柱ぐらいしか俺たちを見ていない。

ふと何かの拍子に彼女は珍しく声を出して前のめりになる。咄嗟に体を支えようとするも、俺の筋肉じゃ耐え切れずそのまま背中から倒れる。左耳から波打つ音が聞こえ、胸元からは彼女の鼓動が聞こえる。こんなドジっ子は放っておけないな。

「大丈夫？」

聞こえもしない心配の声掛けをしてAの顔を覗き込む。メモ帳はびしょ濡れで使い物になっていなく、彼女は渋々「ごめんなさい」と返した。

びしょ濡れの上半身を起こすと、彼女はしゅんとしていて可愛げある様子だった。不覚にも胸が高鳴り、展開が全く読めないだろうけど、誰にも見られてないことを良い事に唇を重ねる。

「大好き」

届かない想いを伝えて立ち上がる。まるでそう、羞恥をAに知られたくないように。それにこんな所に長居してたら風邪を引くだろう。とっとと荷物を纏めて車に乗り込もう。

すると濡れた袖を軽く引っ張られた。何かと思い、まだ座り込んでいる彼女の目線に合わせてしゃがみ込む。

「わ、たしも」

首に手を回され、今度は俺が彼女の方へ倒れ込んだ。俺はまさかと思って声のトーンを上げて訊ねた。

「俺の声、聞こえるようになったの？」

困った表情で彼女は首を傾げる。あれ、なんでだ。でもまあ、愛が直に伝わったならそれでいいか。なんて考えてたら不意打ちに彼女の唇が触れる。俺がしたよりも長、くて、恥ず…いんだけど。脳がぽうっ、としてくる。俺にはそぐわない幸せが満たされ、こんな所で盛るのは本気で馬鹿だが、今すぐにでも手を出したくなってくる。

俺は冷静さを取り戻す為に、彼女から離れて海に飛び込んだ。冷たくて、心地好くて、心臓に悪い。それでもまだ、唇のあの感覚が薄れなかった。