温もり ページ1
貴方18歳。高校三年生。吹奏楽部所属。
はっち=鉢屋 緑。 21歳。会社員。
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6月中旬に行う年に一度の定期演奏会。
木々が生い茂った自然の溢れる所の大きなホールで吹くことが出来る。
ホールのステージはおんぼろ校舎の中にある音楽室とは段違いに広くて響きも良い。
吹いて明らかに気持ちのいい演奏が出来そうな所で盛り上がらない訳が無い。…私を抜いて。
第一に顧問の暴言に耐えられず、二年生の頃ひと月休みを頂いたのだ。指導のつもりなのか知らないが、口がキツくて精神的に追いやられてしまった。
その悩みをひたすら聞いてくれたのが鉢屋さん。どんな縁で繋がったのかはさて置き、彼とお付き合いをしている。
そしてこれが第二の理由だが、例の鉢屋さんが残業で定演に行けないかもと昨夜連絡が入った。ガックシ。
私はトランペットを片手にステージ脇で深呼吸をする。本番が近くて緊張してる訳じゃない。今胸に溢れてるモヤモヤを少しでも取り除くため。
顧問の青春を感じさせる、詰まらない威勢のある話を部員に伝え、ステージ脇の扉が開く。天井から降り注ぐ光が眩しくて仕方ない。
私にそぐわない照り付けられたステージに上がり、各々の用意された椅子に座って正面を向く。…本当なら彼がここで見てくれて、今聞こえる拍手の中に彼も混じっていたのに。
意味の無い深呼吸をしたなと思いながらも、楽譜をめくる。
憎くて嫌いな大人の指揮棒が揺れた。
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アンコールまで必死こいて音を出した。ストレス発散と言えばそうかも知れないけど、トランペットを暫く吹くことが出来ないと考えると少しばかり寂しい。
客が出る外へ通ずる廊下に部員が整列し、有難う御座いましたと深々と頭を下げる。左脳の辺りで彼を求めているが、ブラックに勤めてる彼が到底来れると思えない。
ふと、いくらか離れた所で後輩や同期がざわつき出した。高身長やらすらっとしてるやらイケメンやら…。…鉢屋さんだといいなって思うも、何度も言い聞かせてるが居るはずが
「A…っ」
ガバッと正面から抱き締められた。客も部員も誰もが見てるのに、人に見られて何かするの嫌いって言ってたのに。
「残業、今日の朝の内に終わらせて寝ずに来ちゃった」
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作者名:皇 | 作成日時:2019年5月17日 0時