人魚の涙は宝石になる。 ページ9
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Aはよく体調を崩す。頻度で言えば、一ヶ月に一度熱を出す程度ならマシなくらいで、環境が少し変わるだけでも寝込んでしまう。最近は急に寒くなったものだから、疲労も相俟って此度も例に漏れずに熱を出したというわけだ。
冷えピタを額に貼ってやると、冷たいのが気に入らないのかやや眉間に皺が寄った。
｢解熱剤が効くまで少し我慢できるか｣
｢ん……｣
普段の低体温が嘘のように熱い頬を撫でる。柔らかい感触だけが変わらない。暫し寝ようにも寝られない様子のAを眺めていたが、彼女が体調不良のあまり朝から何も口にしていないのが気になったので一度寝室から離れて軽食を作ることにした。
元々食が細いAは、体調を崩すと更に何も食べなくなってしまう。食事も喉を通らないという状態が本当にあるのだということを、俺は彼女に出会って初めて知った。熱を出してからそう時間が経たないうちは、リゾットすら口にしない。コーンスープなら飲めるだろうか。好物は別腹だと前に言っていたから、固形物が食べられそうなら柔らかい食パンを一緒に食べればいい。
色々と考えながらキッチンに立っていると、寝室のベッドでAが動いたような気配がした。一旦食事の準備を中断して寝室に戻ると、膨らんだ掛け布団がベッドの真ん中に丸まっている。
｢A、どうした？｣
｢……｣
返事がないのでほんの少し布団を持ち上げてみると、しゃくりあげているのがやや暗い視界に入った。泣いている。さあっと心拍が遠くなるような感覚を無視して、慌てて顔を覗き込む。
｢そんなにつらいのか、どこが痛いんだ｣
｢しゅうやくん｣
｢ん？｣
続きを促すが、Aは何も言わない。しかし、力無く俺の服の袖口を握る手が｢そばにいて｣と訴えているようで、離れられなくなってしまった。身体が冷えないよう布団でぐるぐる巻きにして、膝の上で横抱きにする。背中をとんとんと叩くと、やがて呼吸が元の落ち着きを取り戻してきた。
｢寂しくなったのか｣
｢ん……｣
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年11月8日 13時
