present ページ19
.
結婚してからというもの、修也くんはわたしによく形に残るものを贈るようになった。学生時代寄り道した店で買ってくれたクロワッサンとは訳が違う。これまで誕生日等の特別な日以外でそういうものを贈ってこなかった修也くんの変わりようは、関係性の変化をそのまま現しているようで何だか擽ったい。
｢ブローチ、付けてやろうか｣
｢おねがいします｣
修也くんに手渡した宝石を閉じ込めたブローチも、何でもない日にくれたプレゼントのうちの一つだ。繊細にカットされたクリスタルは、掌の中に白い光をあつめている。不思議なことに、彼からのプレゼントは記憶力に自信のないわたしに修也くんとのこれまでを鮮明に思い起こさせるものとなっていた。それらを見ていると、この日はこんなことがあったとか、こんなことを言ってくれたとか、幸せなことばかりが脳裏に浮かぶ。まるで魔法のようだ。
閑話休題。修也くんの長い指は割と器用で、わたしがやろうとすれば数分は掛かるであろうブローチの装着をものの数秒で終わらせた。｢今日も可愛い｣と仕上げのように額に口付けられ、反射的に頬に返す。
｢ありがとう｣
｢針は危険だからな｣
昔から相も変わらず過保護な修也くんに思わず笑みがこぼれた。彼に大切に愛されていると、自分がお姫様にでもなったような気がしてくる。
｢修也くんは準備できたの？｣
｢これからだ｣
修也くんは外で常に気を張っている影響か、家ではわたしを抱きかかえてぼんやりしていることが多い。しかし、今日は数週間ぶりのデートなので随分とご機嫌である。いつも何かに追われるような、生き急ぐような姿を見ているので、ゆったりとくつろぎながらマイペースに身支度をする彼を見ると、強ばりがほどけるような安堵が広がる。色々と計画を立てて旅行をするのも楽しいが、それなりに近場で行き先を定めず一期一会の物見遊山を楽しむというのも乙なものだろう。
ジャケットを緩やかに身にまとった修也くんの後ろ姿に吸い寄せられるようにくっつくと、振り向いた彼がわたしのほっぺを突きながら顔を綻ばせた。
｢くっつき虫、今日は何を食べたい？｣
｢いちご！｣
｢相変わらず偏食だな｣
馬鹿にしている風ではない愛おしさの滲んだからかいに、胸の奥がきゅっとする。なりふり構わず抱きついて愛を伝えたいけれど、せっかく修也くんからのプレゼントでおめかしをしたのだから我慢しよう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 28人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おひめ | 作成日時：2023年11月8日 13時
