気まぐれお雛様。 ページ17
2024.3.3 桃の節句
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｢今日はAの言うことを何でも聞く日だ｣
修也くんがわたしの寝癖を梳かしながら、ふと思い出したように言う。そうだ、今日は三月三日。ひな祭りもとい、修也くんがわたしをダメにする日だ。
｢いつだって何でも聞いて貰ってる気がするけど｣
｢おまえはおねだりが上手いからな｣
わたしのおねだりが上手いというよりは、修也くんがわたしの誘惑に弱すぎる、というのが正しい。昔から他の女性には見向きもしないのに、わたしにだけは心を曝け出して真っ直ぐ愛してくれているのが伝わってきて、擽ったい気持ちになる。
｢ハニートラップに掛かっちゃだめだよ〜｣
｢Aしか見えてないから問題ない｣
軽口を叩き合っていると、戯れのようにキスを落とされた。視線が交じり、額をくっつけて笑う。
閑話休題。これまで修也くんにおねだりを拒否された覚えは一切無いが、それでも今日は特別何でも聞いてくれるらしい。いつも通りもいいけれど、せっかくなら変わったことがしたい。うんうん唸りながら考え込んでいると、手持ち無沙汰な修也くんがぎゅうぎゅうと身体を抱き込んでよしよしと頭を撫で回した。髪の毛を梳かしてくれたばかりだというのに、わたしを愛でることに余念が無い。
……あ、いいこと思いついた。
｢今日はわたしが修也くんのお世話したいな｣
｢……A｣
｢なあに？｣
｢いつも世話されてる自覚があったんだな｣
｢それくらいあるもん！！｣
今日はわたしのお世話焼くの禁止ね！と言い放つと、修也くんはショックを受けたように固まってしまった。今日のわたしはお雛様だから、何を言っても通るのだ。
◇
｢はい、あーん｣
｢A、自分で食べられる｣
｢ダメ｣
｢……｣
修也くんはわたしが差し出した玉子焼きを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。……修也くんがいつもわたしにあーんしたがる理由が理解できたような気がした。何だか雛鳥を見ているみたい。
｢おいしい？｣
｢ああ｣
今日の玉子焼きは中にチーズを入れた特別仕様だ。普段はほとんど修也くんが食事を作ってくれるので、わたしが作ってみた。世話を焼くなと言われた手前何もできず、複雑そうな表情で此方を見てくる過保護を隠せていない修也くんも大変可愛かった。
朝食を食べ終わり、ほくほくとした気分で食器を食洗機の中に入れていると、朝なのに若干疲労が透けて見える修也くんに後ろから抱き竦められる。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年11月8日 13時
