あなたは生きる理由。 ページ11
結婚したばかりの頃、愛情を自覚する話。
若干暗い?ので注意
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色もなく、音もなく、温度すらも感じられない世界。薄暗い部屋に、ぼんやりと修也くんの後ろ姿が浮かんでいる。表情は分からないが、やつれているようにも、項垂れているようにも見えた。
嗚呼、これはわたしが死んだ後の光景なのだ。何故かその確信だけがある。修也くんの寂しげな後ろ姿を抱き締めようにも、置物になってしまったように身体どころか視線すらも動かせない。まるでテレビのブラウン管の向こう側の景色のように、修也くんの世界に触れることはできなかった。何ともいえない歯痒さがふつふつと沸き上がってくる。
ふと、修也くんの視線がある一点に留まっていることが分かった。やや古びた質感のそれを、彼の手が優しく撫でる。……わたしの写真なんて、いつの間に撮っていたのだろう。死後も妻の面影に囚われ続ける彼は、何もできないわたしの目にどこまでも痛ましく映った。愛妻家の末路はこんなにも残酷なのか。
終わりのない苦しみと一生消えることのない傷を与えてしまったような罪悪感。愛は真心だという。愉悦よりも遥かに大きな自身への不快感を思うと、わたしはわたしの想定よりずっと修也くんを愛しているらしい。……今気付いたところで、相も変わらず彼に触れることすらできないが。ただ見ていることしかできないもどかしさは、中学時代のあの頃を思い出させた。結婚してもこんなところまで変わらないとは、何とも滑稽な話である。
◇
｢……｣
まだ外は薄暗い。そっと視線を動かすと、修也くんの穏やかな寝顔が視界に映る。随分早く目覚めてしまったようだ、修也くんよりも早起きとは。あの世界では独りぼっちだった彼が、わたしのそばで……暖かな布団の中で穏やかな寝息を立てていることに、どうしようもなく安堵した。夢でよかった。
彼の胸元にぎゅうと抱きつくと、規則正しい心音が心地よく響く。どうしてわたしは、温もりがとけ合うこの愛しさを死ねば手放せると思っていたのか。
｢……ごめんね、修也くん｣
昔から身体がそんなに強くなかったから、絶対に長生きはできないだろうという予感があった。母いわくわたしと体質が似ているらしい父が早世してしまったことも、その予感に拍車をかけていた。死の予感が頭から離れないあまり、心のどこかで将来のことを考えても意味がないとすら思っていたのを、夢に咎められたような気分だ。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年11月8日 13時
