ハロウィン・スイートナイト。 ページ48
𓂃 𝕙𝕒𝕡𝕡𝕪 𝕙𝕒𝕝𝕝𝕠𝕨𝕖𝕖𝕟 𓂃
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豪炎寺家の年中行事は、Aの気まぐれにより決まる。今年のハロウィンのご要望は｢スイーツいっぱい食べたい！｣。まさに色気より食い気、仮装の気分ではなかったらしい。ということで今日は秋の味覚をふんだんに用いたスイーツパーティーだ。
｢修也くん、わたしもお菓子つくりたい｣
｢おまえが？｣
｢うん｣
｢お菓子作り？｣
｢うん｣
｢面倒臭がりなおまえが？｣
｢しつこい｣
｢すまない｣
つい何度も聞き返してしまった。というのも、Aがお菓子作りをするのは一年に一度、バレンタインのときだけである。そのバレンタインも俺のためという底なしの愛がなければ放り投げてしまうだろうことが容易に想像できるくらい、彼女はものぐさの権化だった。気まぐれというのもどう働くか分からないものだ。
｢どうして急に？｣
｢夫婦らしく修也くんと一緒にキッチンに立ってみたくなったの｣
｢そうか、おいで｣
俺の奥さんは、口を開けば可愛らしいことばかり言う。緩む頬を自覚しながら深く考えることなく傍に引き寄せた。Aに怪我をさせないため、刃物と火は使わせない。安全第一。心の中で自分に言い聞かせる。彼女が腕に抱えていたピンクのフリルがあしらわれたエプロンを着せ、前で蝶々結びにした。結ぶの上手！と無邪気に喜んでいるのを見ていつも通り抱き締めて甘やかしたい気持ちが湧いてくるものの、既に常温の世界に晒された材料たちを駄目にする訳にもいかずぐっと堪えた。
ここまでは順調だ。かぼちゃの橙色とさつまいもの紫色に染まったクリームや生地が続々とできている。甘いものだけだとAが飽きて食べなくなってしまうので塩気のあるものも必要だが、それは後で考えることにして生地を焼き上げよう。取り分けて綺麗に並べた橙と紫をオーブンに放り込んだ。
｢どれくらい焼くの？｣
｢二十分だ｣
熱を発し始めたオーブンからAをやんわり離す。今のうちに洗い物を済ませようとボウルたちを食洗機にかけた。Aはオーブンに後ろ髪を引かれている様子である。……好奇心旺盛なのは良いことだが、生地を作る間立ちっぱなしだったためか若干顔色が悪いのが気になる。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年1月31日 1時
