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｢俺もおまえと離れるのは寂しい。でも、また必ず会おう。これはその約束の証だ｣
Aがぱちりと瞬きして、俺がかけたジャージの上着に手を添える。
｢次会うときに返してくれよ｣
｢う〜〜〜｣
｢！？｣
俺にできる精一杯の対応をしたはずなのに、先程よりも更に泣き方がひどくなり頭が混乱してきた。Aが両腕を広げたのが目に入り、反射的に抱きしめる。今思えばこれが彼女を初めて腕の中に閉じ込めたときだった。妹にするようにふわふわの髪を撫でながら、Aの体温を直に感じる安心感に身を委ねていると、ぽつりと小さな声がした。
｢──｣
｢ん？｣
｢なんでもない、わたしのこと忘れたら泣いちゃうから｣
｢もう既に泣いてるぞ｣
｢もっと泣く｣
｢それは困るな｣
Aにはなるべく泣いて欲しくない。彼女には何も汚れたものに触れたことがないような、きれいで能天気な笑顔が似合うから。しかしそんなことを思いながらも、あわよくば俺と離れたくないという気持ちを福岡に帰ってもずっと忘れないでいて欲しかった。代えがあるとはいえ何枚あっても困らないほどよく使うジャージの上着を彼女に渡したのは、九十九パーセントの気遣いと一パーセントの下心だ。
｢おまえのことを忘れるわけがないだろ｣
一ヶ月という短い時間を、片時も離れることなく共に過ごした女の子。異性どころか同性の友達とすら、こんなに長い時間を過ごすことはない。俺は基本的に一人で行動することが好きだが、Aと一緒にいる時間は不思議といつも心地好かった。何よりつらいときに常に支えてくれていた存在を忘れてしまうほど薄情でも恩知らずでもない。
｢ミサンガを見ながら毎日わたしのこと思い出してね｣
｢そうする。Aも俺のことを思い出してくれるか？｣
｢うん｣
しっかり頷いたAを確認し、そっと身を離す。泣き腫らした顔は痛ましいが、いつもの笑顔が戻ってきたことに安堵する。彼女から離れた瞬間やけに寒くなったような感覚には気付かないふりをした。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年1月31日 1時
