全部お見通し。 ページ36
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｢A｣
やさしく揺らされる感覚に、薄らと視界が広がる。見慣れた切れ長の眸が柔らかく弧を描いて此方を見ていた。
｢ただいま｣
｢おかえり〜……｣
寝起きのぼんやりした頭でも修也くんの言葉には反射的に反応できる。彼の方に腕を伸ばすと、そっと身を寄せてくれたので遠慮なくぎゅっとした。世界一大好きなにおいに包まれて、彼がいない間に乾いてしまった場所に待ち望んだ水を与えられたような心地好さを覚える。
｢昼寝をしていたのか？｣
｢うん｣
｢そうか｣
よしよしと頭を撫でられる感触に頬が緩んだ。修也くんに触れられることは、愛を感じて幸せ。彼もまた、わたしに触れられることを幸せだと思ってくれているだろうか。暫しの時間が経ち、彼がわたしから身を離そうとした隙をついてキスをおくると、やや驚いたように目を瞠るのが分かり……唐突に視界がひっくり返った。
｢修也くん？｣
｢ん？｣
先程まで昼寝をしていたソファーに組み敷かれたまま顔中にちゅっちゅとキスの雨を降らされ、修也くんの中にあるスイッチを押してしまったことを自覚する。わたしの行動の何がトリガーになるのか分からないけれど、一緒に居られなかった時間を埋めるようなスキンシップが愛おしくて堪らない。ただし、不満もある。
｢修也くんばっかりちゅうして、ずるい｣
｢そんなことはない｣
そんなことはあるの！おまえが可愛いのが悪い。可愛いのが罪ならかっこいいのも罪でしょ。
合間に他愛ないやり取りをしながら一頻りちゅっちゅして満足したらしい修也くんが、背中に腕を回して抱き起こしてくれた。若干物足りなさを感じつつ、彼の手をぎゅうと握る。一瞬でも離したくなかった。だって、日中は修也くんが家にいないのだ。ふたりきりで過ごすときくらいずっとくっついていたいと思うのはおかしいことではないだろう。そんなわたしの心に気付いているのかいないのか、修也くんは戯けた様子で繋がれた手にもキスをした。
｢さて、俺の奥さん。今日はおまえにお土産があるんだが｣
｢おみやげ？｣
｢夕食のデザートは夏らしいフルーツにしよう｣
｢フルーツ！｣
我ながら分かりやすく反応したわたしの頬に仕上げのように口付ける。
｢続きはまた後でな｣
｢！？｣
すべてお見通しだった。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年1月31日 1時
