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｢でもまあ、似たもの同士ってヤツ？｣
奇妙な言葉と共に、円堂がぐっと伸びをした。似たもの同士？
｢A、おまえを探すために東京まで来たって聞いたぞ｣
｢……俺を探すために？｣
｢知らなかったのか！？福岡での就職内定も全部蹴ったらしいって秋が言ってたけど｣
聞いていない。Aにそんな素振りは一切無かった。東京で就職したのは、弟が東京の大学院にいるからだと勝手に思い込んでいた。……Aは、俺を探すために東京まで出てきたのか。気管支の弱い彼女に、東京は過酷な環境であるはずなのに。心臓をぎゅうと鷲掴みにされたような心地がした。夕方特有の涼しい風で若干収まりかけていた熱が、またふつふつと沸き上がる。今すぐ家に帰ってAを抱きしめたい。そんな想いを見抜いてか、円堂が俺の肩をぽんと叩く。
｢そろそろ夕飯時だ。新婚の夫婦にとっては大事な時間だろ？｣
｢……ああ｣
最後に新生雷門イレブンを目に焼き付け、踵を返した。
◇
｢ただいま｣
｢おかえり……わぷ｣
玄関の扉を開くと、Aが出迎えてくれる。帰宅の挨拶もそこそこに、逸る気持ちに従い彼女を引き寄せ抱きしめた。どこもかしこも柔らかい。おまけにほんのり暖かく、やさしいにおいがする。これまでの独り寝のお供である羽毛布団は、どう逆立ちしても彼女には敵わない。
｢A｣
｢ん？｣
東京に来たのは俺のためだったのか。就職内定を全部蹴るとは、何という無茶を。
聞きたいことも言いたいことも山ほどあるが、今伝えたいのはそれではない。彼女の首筋に頬を擦り寄せて、囲う腕に力を込めた。
｢おまえのそばにいられて、幸せだ｣
｢なあに、突然｣
｢……言いたくなったんだ｣
｢そっかー｣
わたしも幸せだよとAが笑う。控えめに此方に体重をかけてくるのが愛おしく、服の裾を掴む手がいじらしい。いつまでも玄関にいる訳にはいかないと仕上げに額にキスをしたら、脱兎のごとく逃げられた。彼女にはまだキスは早いらしい。可愛い。
リビングまで追いかけ、ソファーの隅っこで小さくなっているAの頭を撫でる。
｢俺が悪かった｣
｢きすはもうちょっとまってほしい｣
｢お姫様の仰せのままに｣
恋と愛の狭間。二人の箱庭は未完成。しかし、きっと俺たちはこの世の誰よりも幸せな夫婦になれる……そんな予感がした。
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作者名：おひめ | 作成日時：2023年1月31日 1時
