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「あの、沖矢」
「どうかしたか?」
「いや…どうかしましたか、と言われてもな…こう近くにいると落ち着かないというか」
そう、入院して3日。
3日間この男は面会時間はずっとこのベット脇の椅子に腰掛けて本を読んでいる。
…ように見えて、じっとこちらを見ているのだ。
「…そうか」
赤井に犬耳があればしゅんと垂れ下がっているだろう。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「…迷惑とかじゃないんだ、ただずっと見られると緊張して」
「あぁ、すまなかった」
「居てくれることは…嬉しい、よ」
そう言うと、沖矢は顔をぱっと上げた。
何だか気恥ずかしくなって顔を俯けてしまう。
そんなに顔は赤くならないから、まぁ見られても問題はないが…そういう問題ではないのだ。
「…A」
あぁ、本当にズルい。
今だけ声を変えるなんて。
貴方の声を聞いただけで、どうしてこんなに嬉しくなるの。どうしてこんなに安心するの。
モスグリーンの瞳が、私を映していた。
「…君は、俺が変装している理由を聞かない。変声機までつけているのにも関わらず。それは何故だ?」
私は何も知らない。
赤井秀一という名以外何も。
変装している理由も、そうなった経緯も。
「聞けば、赤井は答えてくれるだろう」
「…あぁ」
「だがそれは赤井、貴男自身の問題だ。恐らく、安易に私が関わっていいものではない」
赤井は、今とても悲しそうな顔をしている。
悲しそうで、苦しそうな顔を。
「赤井は悲しそうな、苦しそうな顔を時々する。それは、その変装をしていることと関係があるのだろうと見ている。…きっと、人生を左右するような大きなものだ。あなたから無理に話させるような真似はしたくない」
赤井の手を、両手で包む。
大きな手は、今だけはひどく小さく感じた。
「だから待つ。いつか話せるようになるまでは、私に話す必要はない。だから、そう気に病むな」
私を抱きしめる赤井の腕は、とても力強く、けれどとても優しいものだった。
「帰ったら、私と沢山話してくれ。色んな話がいい、思い出でも、聞いたお伽話でも。帰ったら、赤井の声が聞きたい」
「あぁ。うんざりするほど聞かせてやる。俺は案外、お喋りだからな」
気がつけば流れるような動きで沖矢が近付いて来て、私の頬に何かが触れた。
「…は…はぁ!?あ、あか…沖矢貴様ぁ!!」
「はーい失礼しまーす、病院ではお静かに。検温の時間です」
「おや、キスの一つで何か問題が?」
「はーい、此処は公共の場所ですよー?」
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ユキ(プロフ) - さちさん» コメントありがとうございます。個人的にとーる君は書いていて楽しいので、この話が一段落しても出てくるかもしれません( ̄∇ ̄*) (2019年3月29日 22時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きがすごく気になりました。よろしくお願いします。 (2019年3月29日 22時) (レス) id: 1af3590574 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 奈楠さん» ありがとうございます。学業も忙しくなりますので更新ができない日々もあると思いますが、作品をよろしくお願い致します。コメント嬉しいです(о´∀`о) (2019年3月15日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 受験お疲れ様です!!!作者様のペースで大丈夫ですよ!更新頑張ってください! (2019年3月14日 21時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 明里香さん» 教えて下さりありがとうございました!修正しました。閲覧ありがとうございます。 (2018年8月3日 7時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ x他1人 | 作成日時:2018年5月20日 18時