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啜り泣く声が聞こえなくなり、家の中を歩き回るような音が聞こえてくる。
窓から様子を見ていれば、彼女が家から出てくる様子が見えた。
何処へ向かうのかをバレないように後ろをつける。行き着いた先はスーパーが近くにあるコンビニエンスストア。
日用品を買いに来たのだろうか。

工藤邸から十数分の場所だったため、一度その場を離れ、工藤邸に戻りスバル360に乗り込む。
運転をしていれば、深いため息が盗聴器越しに聞こえてくる。
盗聴器に気づかれたか――?

『…迷子とは笑えんな』

迷っただけか。
彼女はあんな顔をして抜けているところがある。喫茶店を探して道を気にせず自由に歩いた結果迷ったところをボウヤに会ったそうだ。

『なんで…迷ってるんだっけ……』
『……寒い…』

スーパーの駐車場に車を停め、コンビニの前で立ち尽くしている彼女の姿を確認する。
怪しまれないように、前にこのスーパーで買って車に置いておいたカレールウの入った袋を片手に近付く。
彼女は降り始めていた雪を見上げていた。
その横顔は何処か懐かしむような顔。
ふうっと息を吐けば白く曇る。

『…馬鹿め。近江の空気でなくとも、寒ければ曇るではないか…本当に馬鹿な奴だ』

近江。昔は滋賀県を近江国と言っていたのではなかっただろうか。
僅かに顔をしかめて、瞼を閉じて無理矢理笑う彼女に、気がつけば声を掛けていた。

「…迷ったんですか、Aさん」
「……恥ずかしながら」
「僕車で来ているんですよ。これから帰るところなんです、乗っていきませんか?」
「…すみません、宜しくお願いします」

彼女を車に乗せ、ハンドルを切る。
動き出した車の中で、少しでも彼女を探る為、夕飯に誘う事にした。

「これから夕飯の準備をするんですが、一緒に食べませんか?」
「…迷惑で、なければ」
「迷惑なんかじゃありませんよ、むしろ歓迎します」

そう言うと彼女は少し驚いたような顔をして、眉をやや八の字にして笑った。

「…変な人」
「酷いですね」

そんな顔も出来るのかと思った。
笑った顔はとても儚くすぐにでも消えてしまいそうな、そんな感じだった。
だがその笑顔は一瞬で、直ぐに無表情に戻ってしまった。
また、見れる日が来るだろうか。

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ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時

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