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落ち着いてから、家に何か足りないものはあるかと思い家の中を見回った。
冷蔵庫の中には2リットルボトルの水が3本。
台所には調理器具と調味料。
衣類とタオル類は十分すぎるほどあった。
部屋も私がいた部屋以外に2つ程あった。
普通の一軒家だろうが、昔の家に比べれば広すぎるくらいだ。
洗濯機はあったものの風呂場にはシャンプーもトリートメントもなかった。
洗面台には何もない。

案外調達するものは少なくて済みそうだ。
シャンプー、トリートメント、洗面器具。
コンビニエンスストアなら大抵のものはあるだろう。そう思って家を出た。



やはり現世は凄いな。
現世…ではないのかもしれないが、まぁそこらへんはいいだろう。
すぐに必要なものが揃うのだから。

まあそれよりも。

「迷子とは笑えんな」

道端でどうやってここまで来たのか脳内で道を戻ろうとするも、既にこの道を右に行くのか左に行くのかすらわからない。

「なんで…迷ってるんだっけ……」

家に帰るため。
静かで、一人では広すぎるあの家に。
私しか、居ないあの家に。

「…寒い……」

人が私を取り残して流れてゆく。
私の存在を忘れたように。
何処かで楓、お前も寒い思いをしていないか。
私と同じ様に寂しい思いをしていないか。

息を吐けば白く曇る。
落ちてくる雪は、ふわふわと舞う。
視界の半分程を優しく隠して。
昔も今も、同じ様に。

お前はいつもこれだけの事なのに、嬉しそうに沢山息を吐いていたな。

“見ろよ柊!俺達が息をしてるのを、近江の空気は証明してくれるんだ”

「…馬鹿め。近江の空気でなくとも、寒ければ曇るではないか…本当に、馬鹿な奴だ」

鼻の奥がツンと痛んで、思わず瞼を閉じて下手くそに笑って誤魔化した。

「…迷ったんですか、Aさん」
「……恥ずかしながら」

後ろから聞こえてきた声に振り向けば、そこには沖矢さんがいた。

「僕車で来ているんですよ。これから帰るところなんです、乗っていきませんか?」
「すみません、宜しくお願いします」

沖矢さんの手には買い物袋があった。
きっと晩御飯を作るのだろう。
助手席に座らせてもらい、私達二人が乗った赤い車は動き出した。

「これから夕飯の準備をするんですが、一緒に食べませんか?」
「…迷惑で、なければ」
「迷惑なんかじゃありませんよ、むしろ歓迎します」

そう言う沖矢さんが少し可笑しく思えて、気がつけば私は笑っていた。

「…変な人」
「酷いですね」

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ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時

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