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沖矢さんと道を歩いていると、双子用のベビーカーを押す女性の姿があった。
それを見て私は呆然としてしまった。
双子。
そう、現世では当たり前のことじゃないか。
双子が普通に育てられていることなんて。
周りから存在が認められていることなんて。
「大丈夫ですか?Aさん」
「…あぁ、大丈夫です」
沖矢さんが何か言いたげにこちらを見ていることは分かっていたが、軽く会釈をして去っていくあの双子の母親の後ろ姿から目が離れない。
それから少し歩いたところに、私の家と昴さんの家はあった。
「…大きいのですね…沖矢さんのご自宅」
「いえ、知り合いの家を貸して頂いてるんです」
「そうなんですか…」
こんな大きな家がお隣だったとは。
表札は【工藤】。
知り合いは工藤さんなのか。
…工藤?工藤といえば、なにかアニメで…
「高校生探偵、工藤新一…」
「!」
そうだ、工藤新一。江戸川コナン。
この二人が同一人物で主人公であることしか知らないが、ここは東都の米花町。
間違いない、これは、この世界は。
【名探偵コナン】の世界だ。
映画がやってたような気がする。
待って、あの店員さんって。
名探偵コナンのキャラクターか。
確か工藤新一は黒の組織のアポトキシン4869を飲まされて…それで…
ノックリストがあぁとかこうとか…。
だめだ、銅鏡で見た情報だけじゃ足りない。
「…NOC…」
「…どうかしましたか?」
ハッとして口を噤む。
完全に自分の世界に入ってしまっていた。
「あぁ、いや、なんでも。ではありがとうございました」
「おっと、少し待ってください。髪に埃が」
手首を掴まれ、髪に触れられる。
大きな、男の人の手。
思わずその手を振り払った。
「すみません、驚かせてしまいましたか」
「…いいえ、ありがとうございました。失礼します」
頭を下げて家に入る。
扉を閉めてすぐ、ズルズルとしゃがみこんだ。
「…楓、私達はこの世に生まれていれば…死なずに済んだかもしれぬな…」
そういった瞬間、バーカ、と言われた気がして、泣きそうになった。
「そうだな楓。我等は忌み子、だからこそ我等は自由。私がお前でお前が私…そうだった……ッ」
声を押し殺して泣いた。
煉獄にでも、地獄にでも行けば楓ともう一度会えると思っていたのにと、お前が殺されてから思うように息ができぬ日々が続いたと、吐き出したい気持ちを抑えて。
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ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時