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「な…」
腹に刺さるナイフを見て、サッと血の気が引くのが分かった。
ナイフを握るその人物の腕は細く、女だと確信した。
その腕を掴み、逃げようとする女を必死で引き止める。
「あの封筒を、あの写真を工藤邸のポストに、入れたのは…君なんだろう?」
呼吸をする度、女が逃げようとする度に痛む傷口に顔をしかめながらも問いかける。
なぜこんなことをするのか、何か理由がこの人にもあるはずだ。
「…なんで、貴女なの?ずっと私の方が好きだったのに、なんで貴女なんかが…っ!」
フードが取れて見えた顔には涙が伝っていた。
真面目そうな外見の若そうな女性、まさかこんなことするようには見えないのに。
真っ黒な髪を一つに束ねて、眼鏡をかけているごくごく普通のきれいな女性だ。
「沖矢さんがいるのに安室さんとかいう店員さんと仲良くして…っ私の方が、ずっと長くあの人を好きでいたのに!」
悲痛な叫びが、彼女の高めな声から痛いほどに感じ取れた。
思わず手から力が抜け、その隙をつかれて逃げられてしまった。
勢いよくナイフが引き抜かれたことで血がぽたぽたと地面に落ちる。
「…っ、痛…」
立っていることが辛くて、しゃがみ込もうとするも痛みに耐えきれず冷たいコンクリートの上に身を小さくして転がった。腹に手を当てれば湯たんぽを触っているように熱くなっていた。
シャツが赤く染まって肌に張り付くのが分かる。
「柊さん!!」
安室さんの声が聞こえるが、あまりの痛みにわずかにしか目を開ける事が出来ない。
涙でぼやける視界には、私の顔を覗き込む安室さんが見えた。
「大丈夫ですか!?今救急車を呼びますから…!!」
「あむ、ろさん」
安室さんは私の方へ向いて、耳を寄せてくれた。
ありがたい、痛みで掠れ声しか出ないから。
「私のコートのポケットに、あの女性が、送ってきたものが…彼、が無事か、どうか…」
「分かりました、分かりましたから…もう喋らないでくれ」
願うように言われた言葉に抗うことなど出来なかった。
安室さんがスマートフォンで救急車を呼んでいる声が聞こえてきて、私は瞼を閉じた。
なんでだろうな、今無性に貴方の声が聞きたいんだ。
今、耳に入ってくる安室さんの声に無性に悲しくなるんだ。
今、貴方が迎えてくれるだろう家に帰りたい。
死ぬなら、貴方の腕の中が良いのに。
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ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時