検索窓
今日:4 hit、昨日:9 hit、合計:315,233 hit

35 ページ39

赤井side

雨にぬれる顔も髪も、何も気にならなかった。

Aは前世でわずか10歳にして命を落とした。
10歳ならば、その事について知っていなくてもおかしくは無いし来ていなくても不思議ではない。
本人が気づいていなくとも、精神的に追い詰められていたのだとしたら?
生理現象が起きなくてもおかしくは無い。

冷静ならば車で行くという判断ができただろう。
その方が早く目的地に着く事が出来るし、早くに彼女に会えるはずだ。
だが冷静ではなかった俺は車には乗らずに、走って喫茶店ポアロに向かっていた。
インカムから聞こえてきた泣き声に、思わず耳に付けていたそれを外してポケットに乱暴に突っ込んだ。

ポアロに着き、扉を開けると、安室君がこちらを向いていた。

「わ、濡れちゃってるじゃないですか!私タオルを持ってきますね」

奥へと足早に行く店員に構わないでいいと言おうとしたが、久々にがむしゃらに走ったせいだろうか、息が切れて声と言える声は出なかった。

安室君は俺を見て驚き、次には悲しそうに俯いて笑った。

「貴女の言う彼は、貴女の後ろに居る、傘も差さずに走ってきたあの男ですか?」

柔らかな声音で問う安室君。
振り返った彼女はありえないというような顔で俺を見た。

「何故、此処に…?」
「君の様子が変だったから、心配で」

沖矢昴の声でしか話せないのが苛立たしい。
俺自身の声でAに言いたい事があるのにと声を出せずにいると、安室君は俺を思い切り睨んでから、先程と同じように優しくAに問いかけた。

「柊さんは、彼に心配を掛けたくなくて、此処に来たんじゃないですか?」

小さく頷いた彼女に、彼はまた話す。

「彼が大切なら、まず彼に相談するべきだと思いますよ。彼も貴女のことを大切に思っているみたいですし。もし彼が悩み事をしていて、一人で抱え込んでいたらどうですか」

彼は右手の人差し指をピンと立てて、彼女に問う。

「私は…我儘かもしれないが、力になりたい。私に話してほしい」
「そういうことです。彼もきっと同じ気持ちで此処にいると思いますよ」

直ぐに俺たちはどちらからともなく抱きしめあった。
そして店員…榎本さんが戻ってきたと同時に彼女が離せと俺を押してきた。
そのまま彼女を離すと、彼女は榎本さんに呼ばれて店の奥に行った。

安室君は俺の近くまで来て、胸倉をつかんだ。

「彼女を不幸にしたら、俺はお前を殺す」

彼のアイスブルーの瞳が、鋭く俺を睨んでいた。

36→←34 *



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (293 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
539人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。