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この子が生まれた時代には、双子は片方を殺すべきという風習があった。
だが、この子の両親はそれを拒み、人里離れた山の中で生まれた赤子を育てた。
兄が楓、妹がA。
家は父親が作り、幸せに育つ…筈であった。

父親が突然、死したのだ。
それ以降母親も徐々に衰弱し、死んでしまった。

5つになっていた双子は、懸命に生きた。
山の中で食物を取り、二人だけで生きた。
しかしそれに気付いた村人は、その家を鎌や鍬で壊した。

お主らも知っておろう?
かつて双子は忌み子と呼ばれ、男女の双子は心中者の生まれ変わりとされたのだ。
双子を産んだ女は畜生腹と罵られる。
そんな悲しき時代よ。

家を無くした双子は、人家のない古い空き家に住み着いた。だが村人からの罵りなどは絶えぬ。
それから双子はある言葉を口にするようになる。

“我等は忌み子、だからこそ我等は自由”
私がお前でお前が私(俺がお前でお前が俺)

双子は二人で一人だった。
兄、妹もなく、互いに同等な立場であった。
それ故、楓は己の名が植物に由来しているものだと知り、Aを柊と呼ぶようになった。
だがある日、楓は村人の暴力によって死した。
元々傷口から入った細菌により弱っておったのだが、そこにとどめを刺されたのだ。

双子は二人で一人だった。
楓を亡くして生きる意味を失ったA。
そんな時、日照りに悩まされた村人は、人柱を出すことになり、忌み子であるAを人柱にしたのだ。

白い着物を重ね、勾玉の連なる首飾りと髪飾りをつけ、静かに琵琶湖に沈んだ。
水を吸い込み重くなる着物は水面に顔を出す事を許さず、そのままAは溺れ死んだ。

怨みを残すこともなく、全てを赦し、全てを受け入れ、ただ水の中の景色を美しいと眺めて死した。

ただそんなこの子の、この子自身すら気付かなかった心の底の願い。我は気づいてしまった。

赦されたいという願い。
生きることを赦されたい。
一人でいるのは寂しいという、ごくごく普通の感情。

それ故我はこの子を独断で生き返らせたのだ。
我はこの子が愛されることを望み、赦されたいという哀しき願いを叶えるために。

もう柊このはなどという子供は居らぬ。
我が戸籍も何もかもを操っておるからの。
この子は、娘を産んでなどはおらぬよ。
僅か十にして死したのだから。

我には分かっておる。
沖矢昴…否、赤井秀一。
お主は、この子を幸せにするという覚悟はあるかの。




命を懸けても守るという覚悟は。

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ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時

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