溺死は思ったより悪くない 【赤井秀一】

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沖矢昴(赤井秀一)side

〈夜分遅くに失礼します､柊です｡…見つかりました｡これから､米花町に帰ります｡それでは〉

午前2時､一方的に告げられ切れた電話｡
見つかった､ということは､彼女の子供はやはり亡くなったのだろう｡用事が済んだら連絡をという言葉は覚えてくれていたようだ｡
盗聴器は彼女がコートを脱いだあとに俺が外してしまったからな｡

「母子家庭か…?」

子供の父親らしい影は見られなかった｡
彼女の様子からも､会話からも｡

考えているうちに空は明るくなっていた｡
だが彼女の車が帰ってくる様子はない｡
TVをつければ､どの番組も滋賀県の話題で持ちきりだった｡なんでも身元が判明したとか｡

『3年前から行方不明になっていた柊このはちゃん(9)だと判明しました｡このはちゃんの母親は3年前に捜索願いを出しており､このはちゃんは事件に巻き込まれた可能性があるとして現在警察が調査中です』

ネットを見てみれば､次々とつぶやかれていた｡

［この子の母親が写真持って聞いて回ってたの覚えてるわー］
［なんかお父さんいないっぽい］
［逃げたんじゃね?］
［女手一つで育ててる感じだった］

彼女は本当に苦労人のようだ｡
調べてみれば彼女は結婚はしていない｡
未婚の母というやつだな｡
両親はとうの昔に亡くなっており､親族などもいなかった｡

昼頃になって漸く彼女の車が帰って来た｡
おそらく仮眠をとっていたのだろう｡
自動車を運転するにあたって適切な判断だ｡

彼女がコートを脱いで､トランクを開ける｡
トランクの中にある横長のグレーの袋に､コートを掛けて横抱きにした｡
あれが子供なのだろうと気づいた｡

「…見つかって､良かったな」

亡くなっている時点で良くはないが､死んだことに気付かれず､死んだことに気付くことが出来ずにいるよりずっといい｡
身体だけでも､帰れたのなら｡

帰らない人を待つより､ずっといい｡

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