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「…そんな……」
目の前に横たわる遺体。
瞼は開いていて、瞳の色が見える。
黒い瞳、黒い髪。
遺体の横に置かれた勾玉の連なる首飾りと髪飾り。重ねられた白い着物。
私だ。
隣にいた警察の人が心配そうにこちらを見ていた。でも、もうなんの音も耳に入ってこない。
発見直後の写真が出されたとき、喉がひきつるのがわかった。
手の指を組んだ状態で祈るように瞼を閉じている。警察によれば、瞼は確認のために発見後に開かせたそうだ。
手のひらで、瞼を閉じさせる。
「……お母さん?」
「…連れて、帰ります…」
「!…はい、手続きをします」
横長の袋に入れられる私の身体。
小さな、130cmにも満たない身体。
自分が死んだことを改めて突きつけられた気がして、胸が苦しくなった。
普通ならば母だと嘘を付けばすぐにバレるだろうが、何故か戸籍があったらしく、終始頭を下げられて終わった。
車のトランクに乗せられた袋。
深夜、静かな駐車場で一人電話を掛けた。
画面には“沖矢昴”の文字。
〈…はい、沖矢です〉
「夜分遅くに失礼します、柊です。…見つかりました。これから、米花町に帰ります。それでは」
〈柊さ〉
一方的に用件を伝えて電話を切った。
自宅を設定し、ハンドルをきる。
来るのに6時間半かかったから、米花町に着くのは朝の7時、8時位だろう。
何故4世紀たった今、少しも遺体が腐らずに発見されたのか。
何故私の戸籍と子供としての私の体の戸籍があったのか。
分からない事ばかりだ、と思っていると、助手席にぼんやりと人らしい形が浮かんだ。
驚いてブレーキを踏もうと思ったが、ここは高速道路、止まれば危険だと気付き近くのパーキングエリアに入った。
助手席には綺麗なひらひらとした袖の着物を着た女性が座っていた。こちらを見て、袖で口元を隠して笑っている。
「そう驚かんでも良い、我は伊邪那美命。あの世の審判者のようなものだ」
「伊邪那美命……」
「うむ、長いであろう?伊邪那美で良い」
「いざ、なみ…」
伊邪那美は満足そうに頷くと、さて、と姿勢を正した。
「お主は今から遠き昔に死した。だが…私の独断で、他の審判者の意見を無視し、お主を生き返らせた。何故ならば、お主が死するとき、怨みの年を抱いていなかったためである」
「普段ならば怨みを抱いて死するものが多いのだが、お主は全てを赦し受け入れ死した。お主が現世の様子を銅鏡で見ていたあの数百年、我は頭の硬い他の審判者と談判をしていたのだよ」
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ユキ - 田中。さん» 田中。さんの作品読ませて頂いております!コメント頂けてとても嬉しいです。琵琶湖をテーマ、というか、近江国を物語に入れたかったんです(笑)コメントありがとうございました、応援しています!! (2018年6月12日 20時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
田中。(プロフ) - 琵琶湖という言葉にドキリとしました!これからワクワクしながら読みたいと思います (2018年6月11日 1時) (レス) id: ddae4419b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» 励みになります、本当に感謝です…! (2018年5月20日 11時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - まさかの和解!予想していなかった展開で驚きました!ゆっくりでいいのでこれからも頑張ってください! (2018年5月20日 7時) (レス) id: adda87380c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - ゆうさん» いつも読んで下さってありがとうございます!コメントを読む度にほっこりとさせて頂いております。更新遅くてすみません、これからもこの作品をよろしくお願い致します! (2018年5月12日 17時) (レス) id: 5d51fce380 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユキ | 作成日時:2018年3月27日 18時