▽忠誠心 ページ42
『カイラ様はこれから沢山の妖怪に愛され、名君として君臨するんです！楽しみで嬉しくて、幸せで……私こんなに幸せでいいんでしょうか……』
彼女の私への忠誠心はとてつもなく強い。
あなたの全てが好きだ、全てを尊敬していると彼女の瞳は強く私に訴える。
しかしその『好き』は私の『好き』とは少し異なっていた。
彼女はいつも私の幸せを願ってくれる。
私の幸せが彼女の幸せであると。
晴れてエンマに妖魔界を託されて、正式に妖魔界の王となった。
彼女は側近として、隣で私を支えてくれている。
これだけでもとても幸せな事であるのに。
「カイラ様？」
彼女の心がもっと深く、私に向いて欲しい。
私を抱きしめて、離さないで欲しい。
私も彼女を抱きしめ、愛を囁いてしまいたい。
だが私達の関係は上司と部下。
側近にしたのは自分自身、彼女がずっと望んでいたこと。
それ以上の関係にはなれないのだろうか。
彼女に想いを伝えようとしても彼女を前にすると上手く伝えられない。
彼女はきっと私を突き放しはしないだろう。だが、少しだけこの穏やかな雰囲気は壊れてしまうかもしれない。
「カイラ様っ…大丈夫ですか！？」
Aの顔が視界いっぱいに広がっていた。
急いで後ろに下がり距離をとる。
顔が熱くなり、ぐわんぐわんと視界が揺れる。
「突然近づかないでくれ…」
「申し訳ございません、その…声を掛けたのですが反応が無かったので」
Aはブツブツと「仕事でお疲れのようだ…疲労回復の漢方を用意しなければ」と呟き、考え込んでいる。
その様子ですら愛らしいと思う。
彼女は私の存在を敬愛してくれている。分かっている、だからこんなにももどかしいのだ。
Aに愛する者が現れたら───？
私は彼女を心から祝福できるだろうか。
恐ろしい、考えたくない。
「A、気持ち悪い質問かもしれないがしてもいいだろうか」
「え？気持ち悪い質問ですか？…えっと、必要なことであれば…」
Aと食事の準備をしながら、私は聞いた。
「結婚は考えていないか？その…あれだ、結婚とかその付き合うことを考えた場合、この職場はなかなか時間が無くて難しい。覚悟は──」
もうよく分からない言葉を色々と言ってしまう。
「結婚ですか、今の所は全く。いつかはしたいなと思いますが、今は絶対にありません！」
いつかはしたい！？
血の気が引いていく私を見て、Aも顔が真っ青になっていた。
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