くすぐったい気持ち ページ5
「カイラ様、お先に失礼します」
頭を軽く下げてから、その場を後にしようとしたが、カイラ様の腕を見てすぐに顔を上げた。
「カイラ様っ…」
触れようとしたが彼が嫌がることが分かっていたので、私は鞄から傷薬を取り出した。
「傷口にこれを…」
「…いらない」
カイラ様は不機嫌そうな声だ。
でも、見ていてかなり痛々しい。
手を見ると、マメだらけで、しかもそれが一部破れ血が出ている。
このまま放置するのは良くない。
「カイラ様、私の事は後で何発でも殴ってもいいでので！！」
「…は？」
私はカイラ様の両手首を握って無理矢理その場に座らせた。
「おい、何を！！」
「治療に決まってるじゃないですか！！こんなにボロボロになるまで…。あの鍛錬で無傷でいられるはずがないです！！」
「触るな！！」
パチンッと手を弾かれるが、私はまた彼の手を握った。
「触られたくないのならばご自身でこの傷薬を塗ってください」
「このような薬を使わずとも私は…」
「カイラ様」
私は立ち上がり、川で急いでハンカチを濡らし、傷口を優しく拭く。
最初は色々言っていたカイラ様だったが、諦めたのか静かに手当てを見ていた。
「できました」
一通り手当てを終えて、カイラ様の手を離すとカイラ様は顔を逸らしながら口を開く。
「今回だけは許してやる」
「ありがとうございます」
カイラ様は始終無言だったため、内心殴られないか少しヒヤヒヤしたがなんとか助かった。
「では、私はこれで」
鞄を持って立ち上がろうとすると
「カイラ様…？」
カイラ様に袖を掴まれていた。
しかし本人も無意識だったのか、私の袖を掴んでいることに気づくと顔を真っ赤にして、すぐに手を離した。
「帰るのだろう！さっさと帰れ」
「カイラ様、お顔が真っ赤…」
「煩い」
耳まで真っ赤にして言うカイラ様が可愛くて、でもそれが表情に出てしまわないように気をつけながら私は頭を下げて、その場をあとにした。
❀
「ただいまー！」
家に戻るといつも穏やかな父が険しい顔をしており、母も眉を下げていた。
「お父さん、お母さん？」
私は何となく嫌な予感がした。
こういう時の予感はよく当たる。
「A、最近、蛇王カイラ── イザナ族の者とよく行動を共にしているようだね」
父親は薬草に関する学者である。
私達は特に政に関わる一族では無いはずなのだ。
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