足を踏み入れた ページ4
映画で観た記憶だが、カイラ様は自身が半妖であることにコンプレックスを抱いていた。
そしてその憎しみはこの妖魔界の王であるエンマ大王の孫であるエンマ様に向けられていた。
エンマ様は半妖ではなく正式なエンマ一族の妖怪であり、しかも膨大な妖力に加え、天賦の才を持つ。
またエンマ様は明るくエンマ一族であるのに関わらず、気さくで、どの妖怪にも分け隔てなく関わる、まさに非の打ち所がない。
誰もが彼、エンマ様を褒め称えるだけで超えようなんて思わない。
だけど、カイラ様は、カイラ様だけは────
必死に彼に近付き、超えるために努力をしているのだ。
アニメや映画だけでは語られない。
私だけが知っている。
妖魔界の学校はいつの時間も常に空いている。閉まることは無い。だが大抵の妖怪は講義が終われば帰る。
私も講義を終えて帰ろうとしたのだが、森に向かうカイラ様の後ろ姿を見てこっそりついて行ってしまった。
カイラ様は私と目が合うとすごい速さで逃げるのだが、ついてきている分には何も言わないことがここ数日でわかった。邪魔をしなければ空気として認識される。
カイラ様は森の中で妖術の鍛錬に励んでいた。
正確な的当てに加え、精度の高い術、広範囲技、彼は書物を読みあさり、ひたすら技を磨いていた。
私もその様子を見ながら今日の座学の復習と課題をやっていく。
この妖魔界には月が昇ることは無い。だがこの場所は特殊な場所で人間界の空が見えるのだ。
この森の存在はどれほどの生徒に知られているのだろう。
カイラ様を追うまではこの場所の存在を知らなかった。
大きな月だ。
今日は満月だった。
月明かりに照らされながらカイラ様は木刀を振る。
その様子に胸が震えた。
カイラ様の側近になりたい。
隣で支えたい、そう強く願わずには居られなかった。
私も努力しないと。
彼を支えられるようになるには─────
「私も強くならないと」
私はもう踏み込んでしまったのだから。
いつもはカイラ様の鍛錬が終わるまで傍にいたが、やるべき事が決まった以上、私も行動しなければならない。
私は鞄に課題やらを入れ、立ち上がるとカイラ様の素振りがピタリと止まった。
一度休憩されるのだろうか。
私は空気ではあるが先に帰るため挨拶はしようと思い、カイラ様の元へ走った。
「カイラ様」
相変わらずカイラ様は顔を逸らし、目を合わせてはくれないが、避けはしないようだった。
21人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ