▼友になりたかった ページ25
「大王様」
彼女が俺の前に現れたのは予想外だった。
衛兵がAと名乗る者が現れたというものだから、驚きで筆を落としてしまった。
それほどまでに彼女が来た事が衝撃だった。
「お久しぶりです」
深々と頭を下げるため、あげるように言ったが、彼女は顔をあげる様子は全くなかった。
「あぁ、Aは人間界で暮らしていたそうだな。慣れたか?」
「はい」
しばらくの沈黙。
だが俺は敢えて口を開かなかった。
彼女が来たということは何らかの理由があるのだろう。
❀
彼女は俺の学生時代を色付けてくれた。
前の人生は短い人生だった。満足に学生生活を送ることが叶わなかった。そのため妖魔界での授業は失った学生時代を送れる大切な機会だったのだ。
もちろん最初は楽しかった。
だが、周りの尊敬の目に包まれて知ってしまった。
俺は確かに、基本的になんでも出来てしまう。鍛錬もしたが。だが習得期間が圧倒的に他の妖怪とは異なり、いつしか心のどこかで孤独感を抱えていた。
周りは俺がエンマ一族であるが故に褒めることしかしない。周りが全て同じように見え、嫌いでは無いがそれ以上の感情は生まれることは無かった。
そんな中で、カイラだけは俺に他の者とは違う感情を抱いていた──激しい憎悪だ。また本人は深い闇を抱えていた。
闇を払い、仲良くなりたいと思ったが、さらに溝は深まるだけ。
恨まれ続けてはいたが、カイラの事は嫌いではなかった。むしろこの孤独感を埋めてくれる唯一の存在だった。関わることはなかったが、存在が孤独感を埋めてくれていた。
そして、ある日突然カイラの暴走を止めるために抱きついた女性妖怪いるという話を耳にした。
そこから彼女へ興味が湧いた。
あのカイラに抱きついた。
それだけでも彼女への関心度は高いのに。
いざ会ったら、俺の世界を強烈に色付けたのだ。
笑いが止まらなかった。
『エンマ様、私のことは漢方とお呼びください!特技は漢方をすぐ出せることです!』
こんなにも面白い者だと思わなかった。
仲良くなりたかった。だから怖がられないように笑顔を心がけた。笑顔でいると「気さくで話しかけやすい」と言われたから。
しかし、彼女はいつもカイラを見つめていた。
彼女の隣にいる時のカイラも闇が薄くなっているのも感じていた。
彼女にとってカイラが中心でも良かった。俺は彼女の友達になりたかった。こんなにも心を舞い上がらせてくれる者を手放したくなかった。
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