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虚勢 ページ19







「カイラさま…?」




書庫は薄暗く、いつも一定の湿度と気温が保たれていた。そのため、心地よい環境ではある。
そして、最近カイラ様も疲れが溜まっているようだった。


あれからそれぞれ書物を読んでいたのだが、
カイラ様は私に寄りかかり、寝てしまっていた。
幸い、講義は全て終わっていた。
だが、荷物は教室に置きっぱなしである。きっとカイラ様も同じだろう。





「でも…起こしたくない」





気持ちよさそうに寝てるのに。邪魔するのは嫌だ。


顔にかかっていた髪を優しく退けると、カイラ様の綺麗な顔が見える。

まつげは長いし、肌綺麗だし、寝顔も。





「……もう少しだけ」





妖怪の前では決して寝ないカイラ様が私の前では寝ている。信頼してくれているのかな、と思うとさらに嬉しくなった。

どうかこのまま、カイラ様には幸せになって欲しい。





「カイラ様に幸せが沢山訪れますように」





そう小さく呟いてからまた書物に視線を移した。












「……Aか?」
「カイラ様、体は痛くないですか?」



書物から視線を上げて、カイラ様を見る。
首や腰やら痛くなっていないだろうか。

カイラ様は少しの間、私の頭頂部辺りに視点がいっていたが、だんだん視線が下がり、私と目が合った。



「いや、痛くは無い。大丈夫だ」
「良かったです。ところでカイラ様、最近睡眠の方は取られているのですか…?目の下に隈があります」




カイラ様は私から視線を逸らす。
これは寝てない。




「カイラさま」
「私のことはいい」
「いや、カイラ様だからこそ気にします」



食い気味に言えば、額を押され、距離を取られた。




「A、近い」
「……申し訳ございません」



やや少しの間があった後、



「私はどこへ進むべきか考えていた」



カイラ様の進路!?




「私は代々続いてきたエンマ一族の統治を終わらせる」



カイラ様の瞳は真っ直ぐだった。しかしその瞳はいつもと違って何やら…
これはカイラ様だけの意志じゃない気がする。



「A、以前私について行きたいと言っていたが…」


待って、これでは──



「カイラさま、何か焦っていませんか…?誰かに駆り立てられていませんか?」



カイラ様は私を見て小さく笑った。
貼り付けた笑顔、私は確信した。




「カイラ様、それはイザナ族の意志であってカイラ様の意思では…」




私はカイラ様を見つめると、カイラ様は私を睨んで言った。


「煩い」

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作者名: | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2024年3月4日 8時

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