▽ふいに気づいて ページ2
「……しまった……！！」
書物庫でつい寝てしまっていた。急いで頭を振ると、笑い声が聞こえた。
「ぁ、ごめんなさい。笑うつもりではなくて……」
眉を下げてそう言うのは先ほど廊下で立ち止まっていた妖怪であった。
確か名前は───学者？かどこかの娘であり、有名な家系でもなんでもない。私にとって役に立つことはなく、全く関係の無い者である。
私は静かに書物を抱え、彼女を無視して立ち上がる。
彼女はそれに気付いたのか、また眉を下げて静かに道をあけた。
「あ、カイラさま」
素直に道をあけたかと思いきや私の袖を掴んできた。
「っ、触るな。不愉快だ」
大声は出せないので、静かに睨みながら言う。
しかし彼女は動じない様子で袖を離すと、私に何かを手渡した。
「勝手に触ってごめんなさい。でももし良かったらこれを……私のお父さんが作ってる漢方で……カイラさま、顔色悪いので。これを飲んだら、体が軽くなりますよ？」
「こんなもの私には必要ない」
父親が作った漢方？
効果なんてたかが知れている。私の家はイザナ族という名家であり、庶民とは違う。
彼女に漢方を押し付けて、私はその場から離れた。
❀
「あの半妖我儘だし、すぐキレるし。腹立つよなぁ、父上に言われてしぶしぶ付き合ってるけど」
教室に戻ろうとすれば、
いつも私の周りにいる取り巻きの妖怪達の声が聞こえた。
どうやら私が居ないため、愚痴を言い合っている。
分かっている。
私に近づいて来る者は私の家柄を見て近づく者ばかり。取り巻きの妖怪達も同様であった。
今回も聞き流そうと思っていたが─────
「やっぱりエンマ様だよな〜、半妖はエンマ様には敵わ……」
「アイツが名家でもなんでもなければ誰も相手になんてしないよな〜」
気がついたら妖術でヤツを地面に押し付けていた。
何が半妖だ。
エンマには敵わない？
ふざけるな。私の何も知らないくせに。
ぼんやりと周りの妖怪達が騒ぎ出すのが聞こえるがどうでもいい。もうどうでも────何もかも壊れて
「カイラ様っ！！落ち着いてください！！」
視界が奪われ、柔らかい感覚に包まれた。
「大丈夫ですから」
穏やかな声だった。先ほどの────
触るな、とか突き放すことだっていくらでも出来た。
だが、久しぶりに誰かに抱きしめられたからなのか。
私は彼女からの抱擁を拒むことが出来なかった。
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