冷たい月 ページ1
「退け、庶民が」
冷たい瞳だった。
胸の辺りがキュッと締め付けられるような痛み。
「申し訳ございません」
静かに私は道を開けた。
紺青色の髪色に白い肌。横顔もとても美しく、中性的な顔立ち──── この顔、やっぱりどこかで見覚えが……
彼は妖魔界でも5本指に入る名家、イザナ族であり、半妖という珍しい者である。有名であるのは確かであるが、それでもどこかで既視感があるのだ。今までこんな感情になることは無かったのだが。
そのモヤモヤは直ぐに明らかになった。
「すごいなぁ、さすがエンマさま」
「さすがミカド族!」
教室に戻れば、人だかりができていて。
その中心にいる妖怪が誰なのかなんてすぐにわかった。
そして、その人だかりから少し外れた場所に居たのは───
「カイラさま……」
その瞬間、全てを思い出した。
私の前世を──── この世界を『アニメ』として見ていた世界での私の記憶を。
蛇王カイラ、彼は私の一番好きなキャラクターだった。
完璧では無い所が好きだった。
天才肌のエンマという存在を憎みながらも、努力を積み重ね、最後には名君として妖魔界を治める王。
今の彼はまだ幼い。
そして、手のひらを見ると自分も幼く、以前のように成人すらしていない。
そして、自分もカイラ様が幼少期に通っていた妖魔界の学校のような場所に通っている。
「これって、」
先ほどまでの沈んでいた気持ちがふわふわと高揚感に包まれていく。
推しを間近で見れるの?それも幼少期から!?
私はちらりとカイラ様を見れば、カイラ様は顔を歪め、廊下を歩いて行ってしまった。
よくある記憶を取り戻して歴史を変えるなんて、私が、なんて傲慢だし、一つ手を出してしまった時にその後の歴史が悪く転がる危険性もある。
簡単に決めていい訳ではないけど。
私の足は彼を追いかけて自然に動き出していた。
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