君は綺麗で愛しい子【shp】 (ページ1)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:7,967 hit

◇01 ページ1

.

真っ黒なコートを着てフードを深く被る。今日の目的は食料調達。なるべく早く帰ろうと決めて家を出る。外には森が広がっていて、人っ子一人居ない。

新鮮な野菜や肉を買い、空っぽだった籠もかなり膨れた。これぐらいあれば暫くは足りるだろうか。
そろそろ家へ帰ろうと思っていた矢先、一つの建物が目に入る。其処に吸い込まれるように入っていく人々に釣られ、私も中に入る。其処は地獄のような場所だった。

「……人身売買か」

ぽつり、とその言葉は盛り上がった客の中に消える。ステージを囲むように椅子が並んでいて、空席はあまり見当たらない。汚い大人ばかりだ。

綺麗な子供は高額で買われ、そうでない子は安値で取引が成立する。人間ではない私ですら可哀想だと思うのに……此処に居る大人は正常な判断が出来なくなっているらしい。

此処に居ても気分が悪くなるだけだ、と出口に足を向けたその時、悲鳴のようなものが会場に響き渡った。
思わずステージに顔を向けると、其処には檻に入った小さな子供が居た。遠目からではよく見えないが、周りの反応を見れば分かる。

きっと、目の色が紫なのだ。

この国では様々な目の色をした人が居る。だが紫色をした人は居ない。何故なら、その色は災いをもたらすと言われているからだ。フードの上からそっと自分の目に手を当てる。……あんな子、売れるわけが無い。

案の定誰も手をあげようとしない。何ならタダでもいいとさえ言い出した。それでも沈黙が続く中、私は無意識にステージへと足を進めていた。

.