ヘリオトロープ

失われた自制心 ページ9

シャワーを浴びたお兄ちゃんがパンイチでバスタオルを頭から被って私の部屋に入ってくる。


『…服、着てよ』

｢どーせ脱ぐ｣

『部屋向こうじゃん』

｢え？シャワー浴びて、来て。って言ったのお前じゃん？｣

『そういう、来て。じゃない』

少し乱暴に私の隣に腰掛けるとワーッと髪をタオルドライをして電気を暗くする。


『何してんの』

｢抱くの。お前のこと｣


お兄ちゃんはそっと私をベッドに押し倒し、手を握ると指を絡めた。


『髪、乾かしなよ』

｢俺はすぐ乾くからいーの｣


慣れてるなぁ。


そりゃそうか。


さっきまでどこの誰か分かんない女の人を抱いてたんだもんね。


少しずつ近づいてくる顔にそっと目を瞑る。


｢ばーか｣

『いでっ』


降ってきたのは唇に甘い感触


ではなく、手のひらでおでこをペチンと叩かれた。


｢俺だったからいいものの、他の男あんな風に煽ったらやられるぞ。絶対言うなよ｣


私から離れて再びバスタオルを頭にかけると背を向けてベッドの淵に座る。


『やっぱり抱けないんじゃん』

｢何言って｣

『さっきまで他の女抱いてたくせに私は抱けないんじゃん』

｢…抱いてねぇよ｣

『嘘』

｢女抱きに家出たわけじゃねぇから！｣


声を荒らげるお兄ちゃんにびっくりしてずっと我慢してた涙が出てくる。


｢ごめん。怒ってねぇから、泣くな｣


違う。


私が泣いてるのは、お兄ちゃんが怒ってるからじゃない。


やっぱり抱けないんだって悔しくて。


優しさで抱かなかったって分かってる。


でも、でも…


いっそのこと無理矢理にでも激しく抱いて、嫌いにさせてほしいの。


最低なお兄ちゃんって思わせてよ。


もう自分の力じゃ、心じゃ、お兄ちゃんを知りすぎて嫌いになれないの。


苦しくて苦しくて、どんなにもがいても、息が出来ないの。


お願い、お兄ちゃん。


｢…っ、A？｣


自ら上裸になり、お兄ちゃんの背中に抱きついた。


『抱いて』

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