伝える想い ページ32
『ばーか』
｢え！？俺頑張って告白したのにばかで片付けっ｣
うるさい口を塞いでやった。
｢…ズルいよ、そんなの｣
佐久間さんはへなへなとその場にしゃがみこみ両手で顔を覆っていた。
その手や耳は真っ赤になっていて、可愛いと思ってしまう。
そして、私も
｢Aちゃん自分からしたくせに、顔真っ赤！｣
『っ、見ないでください』
佐久間さんに背を向け、顔を扇いでいると一瞬のうちに佐久間さんの香りでいっぱいになった。
｢返事、聞かせて？ちゃんと｣
後ろからギュッと抱きしめてくる佐久間さんの声が耳元で聞こえる。
これじゃ体温は上昇するばかりだし心臓もそのうち壊れそう。
だけど、ちゃんと目を見て返事した方がいいかなと思い、佐久間さんの手を優しく握って下ろす。
そして向き直った。
『私でよければよろしくお願いします』
｢俺はAちゃん《が》いーの！｣
そう言ってまたふわりと今度は正面から抱きしめられた。
あの時は宙をさまよっていた私の手も今回はなんの迷いもなく佐久間さんの背中に手を回した。
佐久間さんはいつも私がつらい時そばにいてくれて、お話しているうちに気づけばつらかったことなんてすっかりで。
彼を好きという気持ちに気づいたのはさっきだけど本当はあの時居酒屋で、楽にさせてあげるって言われた時からこうなることは決まってたのかもしれない。
『佐久間さんってすごいですね』
｢ええ〜？そう？｣
『なんだか魔法使いみたいです』
｢じゃあAちゃんだけの魔法使いだなあ、佐久間さんは｣
おでこをくっつけて笑い合い、頬に手が添えられる。
目を閉じても彼が距離を詰めてくるのがわかる。
｢あのぉ｣
その声にパチッと目を開けた時には佐久間さんは床にスライディングしていた。
｢そろそろ施錠を｣
｢あ、すいません！すぐ出ます！｣
佐久間さんは起き上がり自分と私の荷物をサッと持ち私の背中を押しながら警備員の横で立ち止まる。
｢今日もお疲れ様でありまぁす！｣
敬礼ポーズをしてまた私の背中を押しながらそそくさとその場を去った。
なんだか彼との恋は随分遠回りをしてしまったような気がするけれど、きっとそれでよかった。と思える帰り道だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 393人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：涼-suzu-
| 作成日時：2021年2月10日 17時
