溢れ出す ページ30
と、意気込んだもののどう話しかけていいか分からず今日も話さないまま仕事が終わってしまった。
残業もそこそこにデスクにおでこをつけて撃沈していると肩を叩かれた。
「どうしたんすか」
『めめぇ』
もうオフィスには私と目黒くんしかいない。
「先輩までめめって呼ばないでください」
『めめはさ好きな人いる?』
「…いますよ」
『お、どんな人?』
目黒くんは私から視線を外して少し考えるとまた私へ視線を戻す。
「Aさんですかね」
『はっ!?』
勢いよく起き上がると目黒くんはケラケラと笑った。
「嘘っすよ。高校のときから付き合ってる子がいて、今は同棲してます」
目黒くんは私の耳元に口を寄せて私にしか聞こえないくらいの小声で話した。
「んじゃ、お疲れっす」
なんなの?と思いながら颯爽と去っていく目黒くんを目で追いかけるとドアの近くに佐久間さんが立っていた。
「ごめん、えっ、と見るつもりはなくて」
『…何を?』
「いや、めめが今、好きって…」
『嘘ですよ。高校から付き合ってる彼女がいて同棲してるって耳打ちされました。いろんな意味で負けた気分です』
「あ、そうだったの。まあいっちーは照だもんね」
『え、佐久間さん…?』
「まりりんと別れたんしょ?次こそチャンスじゃん」
『佐久間さん』
「俺、帰っ」
話を聞いてくれない佐久間さんの腕を掴んで逃げられないように両手を握る。
『前に言いましたよね?岩本さんのことは恋愛的な好きじゃないって』
「うん…」
『どうして避けるんですか』
手を離そうとするので強く握る。
『私、佐久間さんに何かしましたか?』
「いや、何も」
『教えてください。私を避けなければいけない理由』
「避けてない、よ?」
『嘘つき』
全然目を見てくれなくてもうこのまま前みたいに話せなくなるのかなと思うと視界が歪んで頬に冷たいものが伝う。
「え、」
『このまま前みたいにお話できなくなっちゃうんですか?また一緒にお出かけしようって約束したのも、もうなしになっちゃうんですか?』
一度溢れ出した感情は留まることを知らない。
『そんなの、私…いやです』
「ごめん」
佐久間さんは握られた手をグイッと自分に引き寄せるとそのまま優しく私を抱きしめた。
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作者名:涼-suzu- | 作成日時:2021年2月10日 17時