弱くて脆い ページ28
「もしかして一条ってエスパーなの？」
『どうしてですか？』
「飯誘おうと思ってたから」
『え、行きましょう！岩本さんの奢りですよね？』
「お前、言うじゃん？」
岩本さんに少しでも元気になってもらいたくてご飯を食べてる時もなるべく明るい話題を振った。
『本当にご馳走してくださるなんて…。ありがとうございます』
「こっちこそありがとう」
『私は何もしてませんよ』
「あのさ、麻里菜から聞いたろ？」
『…聞きました』
「理由聞くけど、別れたいしか言ってくれなくてさ」
帰り道、ポツリと話し始めた岩本さん。
『…麻里菜さんも岩本さんも本当にお互いのこと好きなんですね』
「え」
『麻里菜さんも本当は大好きで別れたくなかったと思います。でも、付き合ってたら…他の女性と仲良くしてる岩本さんを見てられなくなる』
「別にそんなつもりないのにな、俺」
『岩本さんにその気がなくても、好きだから不安なんですよ』
「難しい」
普段クールな岩本さんでも、麻里菜さんのことになるとこんな子犬みたいな顔するんだという言葉は飲み込んでマンションへ足を進めた。
「…」
マンションの前に着くと岩本さんは立ち止まってしまう。
『どうしました？』
「明日、記念日でさ今日麻里菜が泊まりに来る予定だったんだ」
『岩本さん…』
「来ねぇんだなって」
顔を伏せた岩本さんの背中をさするとふわりと抱きしめられる。
大好きな香りが私を包み込み、心臓が早くなる。
だけど、佐久間さんに抱きしめられたあの時とはまた違う感情。
「俺、耐えらんないよ」
私よりずっと大きな体に抱きしめられてるはずなのにさすり続ける背中は小さく感じた。
｢忘れさせて｣
岩本さんが体を離して私の頬を両手で包むとゆっくり顔が近づいてきた。
｢んっ｣
『…だめです』
私は咄嗟に手で岩本さんの口を塞ぐ。
『だめです』
そして、手を離してもう一度伝える。
｢ごめん｣
『もう少し、お話しますか？』
私は本当に不用心というか、学習しないというか…我ながらにそう思う。
でも今、岩本さんを1人にしてしまったらいけない気がして外で話すのにも寒いからと家に入れた。
｢…俺、何するかわかんないよ？｣
『何もしないです、岩本さんは』
｢でもさっき｣
『私を利用しても麻里菜さんを忘れるなんてできないこと、分かってるはずです』
岩本さんは苦笑いをしてココアを一口飲んだ。
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作者名：涼-suzu-
| 作成日時：2021年2月10日 17時
